焼肉店の人気メニュー「レバ刺し」が、2012年6月にも法で禁止される見通しとなり、その効果を巡って論議になっている。加熱用で出したものを客が生のまま食べたらどうなるのか、という懸念も出ているようだ。
厚労省としては、食中毒が多発する夏が来る前に、規制をかけておきたかったらしい。レバ刺しの提供を禁止することが2012年3月30日に固まり、6月にも食品衛生法に罰則付きの規格基準が盛り込まれる見通しになった。
肝臓内部からのO157検出を根拠に禁止へ
きっかけは、焼肉チェーン店で5人が死亡した11年4月発生の集団食中毒事件だ。このときはユッケだったが、レバ刺しは、同じ生食用ながら件数がより多いだけあって、当局の目が向けられた。
厚労省は、カンビロバクターといった食中毒の原因菌が牛の肝臓の内部にもいるとして、7月6日にレバ刺しの提供を自粛するよう要請を出した。その後、8~9月に約150頭の牛を調べたところ、2頭の肝臓の内部から腸管出血性大腸菌O157が検出されたことが分かった。このことから、厚労省では、中まで加熱する以外に予防策がないとして、レバ刺しの禁止に踏み切ることにした模様だ。
規制されると、焼肉店は、焼いて食べる目的でだけ牛の生レバーを客に提供できる。スーパーなども生レバーを加熱用としてしか販売できない。
しかし、ある業界関係者は、次のような食べられ方をする可能性があると指摘する。
「お店は、加熱用として出しますが、それをどのように食べるかはお客さんの自由です。実際に焼いて食べるかまでは監視できないので、生のまま食べてしまうケースだってありうると思いますよ」
とすると、規制の実効性が問われることになり、焼肉店の間で混乱が生じる恐れが出てくるのではないのか。
この点について、厚労省の基準審査課では、取材に対し、こう説明した。
日経は社説で「愚かしい」
「残念ながら、客が生のまま食べてしまうことまでは、法律で縛れません。個人の自由だということですが、私どもとしては、『しっかり加熱して食べて下さい』と消費者への注意喚起を行っていきます。今はそれしか言いようがありません」
規制の意味が薄れないかについては、厚労省の基準審査課では、こう言う。
「店がレバ刺しで出しているものを、法規制で止めてもらうことができます。自粛を要請した昨年7月以降、4件も食中毒が出ており、今のところ規制以外に防止策はないと考えています」
しかし、レバ刺し規制そのものについても、未だにメディアの中でさえ疑問がくすぶっている。
日経は、2012年4月4日付社説で「『レバ刺し禁止令』の愚かしさ」と批判的な論陣を張った。「食べ物から完全にリスクを取り除くのは難しい」として、むしろ子どもやお年寄りに生食させないようにし、違反業者は個々に処分するなど禁止の前にやるべきことがあると指摘した。信濃毎日新聞も5日付社説で、「納得を得られないまま禁止すれば、店が『裏のメニュー』として出すことにもなりかねない」と疑問を投げかけている。
日本畜産副産物協会の事務局長は、取材に対し、「事件があったからと言って、あまりに大仰な規制をするのはいかがなものか」と困惑していることを明かした。屠畜後にO157が腸から胆管を通って肝臓に入った可能性があるとして、大学の専門家などに胆管を縛る方法などを調べてもらっているが、まだ実験は成功していないという。
ネット上でも、ブログなどで議論が交わされている。生食用は最近になって多く出回るようになったもので、それだけを大目に見ろというのは難しいという意見や、リスクがあるのはむしろ自然なことであり、安心できる店を選んでもらう方がよいという指摘まで、様々なようだ。