放射性物質の拡散予測が一部公表されていなかった問題を指摘した時事通信の記事で、同社が「弊社の誤報」だとするお詫び記事を配信した。記事は「千葉市内でヨウ素の濃度が毎時10兆ベクレル」だったと報じていたが、実際は千葉市で観測されたデータをもとに試算した原発からの放出量だった。
千葉市にも問い合わせが寄せられた模様で、熊谷俊人市長も「突っ込みどころが多すぎて情けなくなる」とツイートするほどだった。
東京新聞の記事を後追い
この問題は、日本原子力研究開発機構(原子力機構)が運用する放射性物質の拡散を予想するシステム「世界版(W)SPEEDI」の試算結果の一部に、今でも公開されていないものがあったというもの。東京新聞が2012年4月3日朝に報じており、それによると、11年3月15日の試算結果が公表されていなかったという。文部科学省と原子力安全委員会との連携不足が、その原因だとみられる。
東京新聞の記事では、公表されていなかった試算結果について
「試算によると、千葉で観測された放射性物質は3月14日午後9時ごろに放出され、濃度はヨウ素が毎時10テラベクレル(1テラは1兆)だった」
「濃度はピーク時の1000分の1程度だった」
と報じている。「濃度は~」のくだりは、読み方によっては千葉市での濃度とも、福島第1原発での濃度とも読めそうだ。
これを追いかける形で、時事通信が4月3日12時49分に、
「千葉で『ヨウ素10兆ベクレル』未公表=昨年3月、世界版SPEEDI試算」
と題した記事を配信。本文には
「千葉市内でヨウ素の濃度が毎時10兆ベクレルという高い値が出ていたにもかかわらず」
と、東京新聞よりも断定的な表現になっている。しばらくして、この表現は、
「千葉市内で計測されたヨウ素を基に推計した同原発からの放出量が毎時10兆ベクレルという高い値が出ていたにもかかわらず」
と修正され、見出しも
「『ヨウ素10兆ベクレル』未公表=世界版SPEEDI試算-文科省、安全委連携不足」
と差し替えられた。
熊谷市長「こんな記事でも不安に思う方は当然いる」
だが、修正前の情報がツイッターなどで拡散し、千葉市には不安を訴える声が寄せられた模様だ。そのため、熊谷市長は17時過ぎに、
「既に修正されています。他にも突っ込みどころが多すぎて情けなくなる報道です」
「こんな記事でも不安に思う方は当然いるわけですから、メディアはもう少し正確に報道するという姿勢を持って欲しいと思います」
と同社を批判。また、19時45分には、
「時事通信から訂正・お詫び記事を配信して頂きました。内容は既にWeb上で修正済のものと同様です」
ともツイートした。お詫び記事では、
「弊社の誤報であり、読者の皆様に誤解を与え、大変ご迷惑をお掛けしました」
と謝罪しているものの、この記事が時事通信のウェブサイトに掲載されたのは翌4月4日の正午過ぎだった。
なお、今回の試算公表漏れの問題については、平野博文文科相が4月3日の会見で、東京新聞記者の質問に対して
「(文科省から、原子力)機構に依頼をしている部分で、公開漏れがあったとうかがっている。(試算の)依頼をしているのは確かに文科省だが、(原子力)安全委員会の方に報告がいっているものですから、安全委員会の方で報告されるものだと考えていた。文科省には参考ということで(データが)来ていた」
「結果的に連絡が不十分だったんでしょうね。私も、その当時いなかったので何とも言えませんが、省内で検証しているので、はっきりさせていきたいと思っている」
と釈明している。