胸をできるだけ豊かに見せる。寄せて上げて美しい形に整える――。そんなブラジャーの常識を覆すような現象が生じている。
今、胸のボリュームを抑えてバストを小さく見せるブラジャーがヒットしているというのだ。
ワコールは10万枚に迫る売上げ
下着メーカー大手、ワコール(京都市)が2010年4月に発売した「小さく見せるブラ」は今年度中に売り上げが累計10万枚に迫る勢いだという。
そもそも同社がこのブラジャーを開発したきっかけは、全国の20~40代の女性590人を対象に実施したアンケート調査だった。「ブラジャーに何を求めるか」という質問に対し、「胸をコンパクトに見せたい」という回答が全体の10.7%を占めたという。これを受け、同社は「大きな胸を小さく見せる」「なるべく目立たない胸にする」という従来のブラジャーにはなかった発想で開発に着手した。
「小さく見せるブラ」は、胸をコンパクトに整えるため、バスト部分のボリュームを分散させる構造になっている。ワイヤーの開き具合を通常より大きくしたり、カップの内側の布の切り替えを多くしたりして、なだらかな曲面にするなどの工夫をした。
発売当初はインターネット通販限定だった、発売から4カ月の販売計画2000枚に対し、約6200枚が売れたという。こうした好調な売れ行きを受け、同社は昨年2月から、全国の百貨店や量販店など店頭での販売にも乗り出し、現在まで売り上げは順調に伸びているという。
「胸でアピール」はバブル時代の発想
通信販売のフェリシモ(神戸市)でも、数年前から販売している胸のボリュームを抑えたブラジャー「フラットブラ」が人気という。今年5月には、カップの内部に工夫を施した新商品「ワンサイズダウンブラ」も発売する計画だ。ほかのメーカーでも胸の大きさを強調しないブラジャーが売れている。
女性たちは今、なぜ胸を小さく見せようとするのか。「そもそもスリム志向の女性は、胸が大きいとふくよかで太って見えてしまうから嫌だ、という人は少なくない」という。「昔から『デカパイ』などとからかわれ、嫌がっていた女性はいたし、職場や同性の前ではバストで目立ちたくないと思う人は多い」ともいう。
一方、女性の意識の変化を指摘する声も多い。あるファッション関係者は「胸や外見で男性にアピールしようという時代はバブル期のもの。景気低迷の中で女性は堅実に動こうとしている」と話す。「草食系男子」に象徴されるように、男性が弱体化しているとの指摘は多い。男性に頼らず、自立して生きようという女性の姿勢が「胸を小さく見せる」という行動に映し出されているのかもしれない。