埼玉県所沢市が、自衛隊基地近くの中学校について、冷房がなくてもやっていけるはずだとして、防衛省の補助金を辞退した。これに対し、中学校などが反論しており、ネット上でも論議になっている。
補助金支給対象になったのは、航空自衛隊入間基地近くの所沢市立狭山ヶ丘中学校だ。
エアコン設置の防衛省補助金を辞退
市教委の教育施設課などによると、この中学校ではすでに、基地からの騒音を防ぐため二重窓になっているが、エアコンや扇風機はなく、夏は窓を開ける必要がある。これでは、完全防音にならないため、防衛省から2012年度にエアコンを設置するための補助金約7000万円が下りることになった。
ところが、藤本正人市長の判断もあり、市側は、冷房がなくてもやっていけるはずだとして、この補助金を辞退することになった。その結果、市の支出も含めて約1億4000万円かかるエアコン工事は、新年度予算に計上しなかった。ただ、市立小中学校の普通学級では、狭山ヶ丘中も含めて12年度までにすべて扇風機が設置されることになっている。
これに対し、学校やPTAなどからは、エアコンについて不満の声が上がっていると一部で報じられ、ネット上でも、論議になった。小中学校の冷房化率は、まだ全国的にも1割程度になっており、今回も賛否それぞれの意見が出ているようだ。
所沢市は、なぜ冷房がなくてもいいと判断したのか。
この点について、藤本市長は、取材に対し、次のように説明した。
「私たちはこれまで快適さ、便利さを追求してきましたが、そこに大震災が起こりました。原発は止めた方がいいと思いますし、それなら、東京でどんどん電気を使っていることを見直さなければいけません。また、地球温暖化に配慮して、二酸化炭素をなるべく出さない努力も必要でしょう。生活スタイルを変える時期に来ており、いろんな人からも情報を集めて、エアコン設置を止めた方がいいと考えました」
市長「騒音はしょっちゅうではない」
補助金以外で市の支出になる約7000万円については、藤本正人市長は、設置を止めれば4000万円の借金をしないで済むと明かした。残りの3000万円は、「教育は人」だとして、小学校の相談員や中学校の支援員などに予算を付けることにしたとしている。
もし、市立狭山ヶ丘中学校にエアコンが付かなければ、騒音や熱中症などに心配が出てくることにならないか。この点について、藤本市長は、こう言う。
「防音のため普段から窓を閉めて、汗をダラダラ流しているのを想像するかもしれません。しかし、そうではなく、これまでも二重窓を開けて授業をしています。確かに、学校の屋上に立てば、人が大声でしゃべるぐらいの騒音はあります。しかし、それは沖縄と違ってしょっちゅうではありません。教室は、窓を開けても声が通りますし、扇風機も入るので、授業は十分やれるはずです。また、学校は、狭山丘陵の森の中にありますので、空気が通って涼しいんですよ。子どもたちには悪いですが、果たして勉強ができないほどの限界なのか、きっと分かってくれると思っています」
自らは、自宅に1つと市長室にも冷房があるというが、「なるべく使わないように心がけています」と言う。ちなみに、補助金辞退は、基地問題とは関係ないとしている。
一方、狭山ヶ丘中学校の校長は、エアコンがないと困ると明かす。
「入間基地の騒音は、ひどいんですよ。離着陸のときが大きく、授業も一時中断を余儀なくされます。時間帯によっては、1分間隔で飛行があり、授業の支障になっています。それでも、気温が暑いときは30度を超えるので、夏は窓を閉められません。扇風機設置でも、熱い空気が循環するだけで、ほとんど変わらないんですよ。今までは何とか我慢してきましたが、エアコンがないとやはり厳しいですね」
校長は、そのうえで、防衛省が補助する基準の70デシベルを超えているのに補助を受けないのは疑問だとした。PTAなどからも個々に要望が来ており、2012年度はムリでも13年度に設置してほしいとして、継続的に要望していくという。