米アップルが日米を含む世界12か国・地域で発売したタブレット型端末「新しいiPad」(新iPad)は、発売4日で販売台数が300万台を突破し、滑り出しは絶好調だ。
一方で、ユーザーからは徐々にクレームが出始めている。既に米消費者団体誌が「本体が熱くなる」点を公表しているが、加えて無線LAN(Wi-Fi)の電波の受信にも不具合があるのではないかとの指摘も飛び出した。
「旧モデルより感度が落ちる」と相談
アップルの日本版公式ウェブサイト上には、ユーザー同士が機器の使用上の問題点を挙げたり、解決策を教え合ったりする「サポートコミュニティ」というページがある。2012年3月21日、ひとりのユーザーが、購入した新iPadのWi-Fi機能について、電波の受信感度が悪く通信が時折切断されるとして相談をもちかけた。
このユーザーは従来、iPadの初代モデルを使っていた。自宅で、初代機ではWi-Fi経由で通信可能だった場所で新iPadを使ってインターネットにアクセスしようとすると、明らかに感度が落ちるという。Wi-Fiの接続環境は変えていないが、ルーターから5メートル離れただけでつながりにくいというのだ。「機器の不具合か、設定によって解決できるのか」と他のユーザーに助言を求めた。
しかし回答は、「電波強度は設定でどうにかなるものではない」「5メートル離れたら通信できないのは何らかの異常」など、複数の人が簡単には対処できない旨のコメントを寄せた。何度かやり取りを重ねたうえで、相談を投稿したユーザーは、新iPadを初期化して設定を最初からやり直したものの改善しなかったため、本体そのものに問題ありと判断。「一度アップルに持ち込んでみようかと思います」と締めくくった。
国内だけでなく、米国でも同じ内容の「苦情」が見られるが、その数は断然多い。米版のアップル「サポートコミュニティ」をのぞくと、例えば、
「ホテルでノートパソコンと新iPadを使っている。ノートパソコンのWi-Fiの電波感度はいいのに、iPadはとても弱い」
「Wi-Fiルーターから6フィート(約1.8メートル)以内でないと、通信が機能しない」
とある。類似のトラブルを抱えているユーザーは多いようだ。
新iPadを購入した都内在住の男性に聞いてみた。今のところWi-Fi接続で不具合が発生したことはないと断言。周囲にも購入者はいるが、「電波の受信障害があったという話は聞かないですね」と話した。こうなると一部の「不運」なユーザーが、たまたま「不良品」に当たってしまったということだろうか。
高速通信接続対応であっという間に「上限」超える
電波問題といえば、アップルには「苦い経験」がある。2010年6月に発売したスマートフォン「アイフォーン(iPhone)4」で、電話機の持ち方によって電波の受信状態が悪化する症状が報告され、米国で影響力のある消費者団体専門誌「コンシューマー・リポート」が、「購入を推奨できない」と厳しい評価を下したのだ。その後、アップルは当時のスティーブ・ジョブズCEOが会見を開いて釈明、ソフトウエアの更新や電話機のケースの無料配布といった対応策に追われた。
新iPadは、画面の鮮やかさが従来機と比べて格段にアップしたのと並んで、高速通信への接続もセールスポイントとなっている。Wi-Fi接続ができない場所では、従来の3G回線だけでなく、米国とカナダでは「4G」と呼ばれる次世代高速通信規格「LTE」に対応しているのだ。
ところが米国では、高速通信に対応したためにむしろ月額料金が跳ね上がる恐れが出てきた。米国でiPadを販売する通信会社のAT&Tとベライゾンワイヤレスは、一定料金で無制限接続という料金体系を廃止し、一定のデータ量を超えた接続についてはデータ量に応じて課金する従量制に移行している。料金プランは複数あるが、例えばベライゾンの場合、データ量2ギガバイト(GB)まで月額30ドル(約2460円)、5GBまでで同50ドル(約4100円)、10GBまでで同80ドル(約6560円)の3種類があり、それぞれ上限を超えた場合はその後の1GBあたり10ドル(約820円)が加算される。
米ウォールストリートジャーナル(電子版)は3月22日付の記事で、新iPadの30ドルプランで大学バスケットボールの試合中継を見ていたユーザーが、約2時間でこの上限を超えてしまったと伝えた。画面が高解像度になったうえ、高速通信の恩恵で大容量データの動画でもスムーズに視聴できるようになったことで、つい時間を忘れて見続けてしまった結果、あっという間に制限オーバーになったと思われる。
日本の場合、新iPadは現時点でLTEには未対応なうえ、通信会社も「データ通信定額制」を維持しているので、今は米国と同じ問題は発生しないだろう。だが国内の高速通信網は整備されつつあり、通信量の増大で通信各社が将来「従量課金制」に移行しないとも限らない。端末そのものは高性能化しながら「使い放題」できなくなる皮肉な事態に、国内のユーザーが陥る恐れはある。