高速通信接続対応であっという間に「上限」超える
電波問題といえば、アップルには「苦い経験」がある。2010年6月に発売したスマートフォン「アイフォーン(iPhone)4」で、電話機の持ち方によって電波の受信状態が悪化する症状が報告され、米国で影響力のある消費者団体専門誌「コンシューマー・リポート」が、「購入を推奨できない」と厳しい評価を下したのだ。その後、アップルは当時のスティーブ・ジョブズCEOが会見を開いて釈明、ソフトウエアの更新や電話機のケースの無料配布といった対応策に追われた。
新iPadは、画面の鮮やかさが従来機と比べて格段にアップしたのと並んで、高速通信への接続もセールスポイントとなっている。Wi-Fi接続ができない場所では、従来の3G回線だけでなく、米国とカナダでは「4G」と呼ばれる次世代高速通信規格「LTE」に対応しているのだ。
ところが米国では、高速通信に対応したためにむしろ月額料金が跳ね上がる恐れが出てきた。米国でiPadを販売する通信会社のAT&Tとベライゾンワイヤレスは、一定料金で無制限接続という料金体系を廃止し、一定のデータ量を超えた接続についてはデータ量に応じて課金する従量制に移行している。料金プランは複数あるが、例えばベライゾンの場合、データ量2ギガバイト(GB)まで月額30ドル(約2460円)、5GBまでで同50ドル(約4100円)、10GBまでで同80ドル(約6560円)の3種類があり、それぞれ上限を超えた場合はその後の1GBあたり10ドル(約820円)が加算される。
米ウォールストリートジャーナル(電子版)は3月22日付の記事で、新iPadの30ドルプランで大学バスケットボールの試合中継を見ていたユーザーが、約2時間でこの上限を超えてしまったと伝えた。画面が高解像度になったうえ、高速通信の恩恵で大容量データの動画でもスムーズに視聴できるようになったことで、つい時間を忘れて見続けてしまった結果、あっという間に制限オーバーになったと思われる。
日本の場合、新iPadは現時点でLTEには未対応なうえ、通信会社も「データ通信定額制」を維持しているので、今は米国と同じ問題は発生しないだろう。だが国内の高速通信網は整備されつつあり、通信量の増大で通信各社が将来「従量課金制」に移行しないとも限らない。端末そのものは高性能化しながら「使い放題」できなくなる皮肉な事態に、国内のユーザーが陥る恐れはある。