東日本大震災のがれき処理を被災県以外の自治体が受け入れる動きが広がっている。これまで住民の反対などで広域処理が進んでいなかったことに対しては、「『絆』は口先だけなのか」といった批判も出ていた。
政府が各自治体に受け入れを要請し、事態が動き出した形だ。一方、広域処理については、「本当に必要なのか」といった疑問や、がれきの放射線量などを不安視する声もある。中には「産廃利権」を指摘する国会議員もいる。
田中康夫代表「これぞ産廃利権!」
1995年の阪神・淡路大震災のときのボランティア活動でも知られる新党日本の田中康夫代表は、がれきの広域処理を進める環境省に対し「笑止千万」と、2012年3月8日号の日刊ゲンダイ(全文参照)で異論を述べた。
阪神大震災の際のがれきは2000万トン、東日本大震災は2300万トンだとして、「被災面積当たり」のがれき分量は「相対的に少ない」と指摘した。地元首長の中からは、広域処理の必要性に疑問の声も上がっているとして、「これぞ産廃利権!」と書いた。「利権」ゆえの広域処理ではないか、という指摘だ。
兵庫県に聞いてみると、阪神大震災のとき県内で発生したがれき1980万トンのうち、大阪市や横浜市、民間などで約144万トンの災害廃棄物を「県外処理」した。
今回政府は、岩手・宮城2県の約400万トンの広域(被災県外)処理を予定している。
田中代表が触れた地元首長による疑問の声のひとつは、岩手県岩泉町の伊達勝身町長のもので、2月29日付朝日新聞が報じたものだ。
医師らから懸念の意見書
朝日記事によると、伊達町長は、広域がれき処理について、
「無理して早く片付けなくてはいけないんだろうか」「10年、20年かけて片付けた方が地元に金が落ち、雇用も発生する」
として、
「処理されなくても困らないのに、税金を青天井に使って全国に運び出す必要がどこにあるのか」
と疑問を呈した。
また、がれきの放射性物質をめぐる不安の声もある。大阪の医師有志らが2011年12月、府と大阪市に対し「医師の立場からの意見書」を出し、会見を開いた。意見書では「がれきを広域に拡散することは国土を放射能汚染させることとなり(略)」として、がれき受け入れに反対していた。
広域処理の対象がれきは岩手県と宮城県のもので、福島県のがれきは含まれない。政府は「放射性セシウム濃度が不検出または低く、安全性が確認されたものに限る」として、「1キログラムあたり240~480ベクレル以下」などの基準を示している。
広域処理について現地では、必要性に疑問を示した岩泉町の伊達町長のような声が少なくないのだろうか。岩泉町に電話すると町長は県外出張のため、確認取材はできなかった。町の担当者は「がれきが『復興の足かせ』とマスコミが連日報道するのは、行きすぎている感じはする」と話した。
がれきの状況で自治体間に温度差も
一方、被災地中最も多い610万トン以上(当初)のがれきを抱えた宮城県石巻市の担当者にきくと、がれき処理の遅れは「足かせ」になっており、広域処理への協力を「お願いしたい」と強調した。
木材などのがれきを放置し続けると自然発火する場合があり、ガス抜きなどに費用や手間もかかる。ハエの発生など衛生面での問題もある。がれき処理などの復旧作業は早く終え、復興に全力を注げるようになりたい、との思いが強いようだ。
がれきの量の違いなどから、広域処理の必要性に対しては「各自治体間で温度差はあるだろう」と分析した。
がれき処理は3月12日現在、被災3県の約2250万トンのうち、6.7%しか進んでいない。この段階の広域処理は、東京都や山形県など1部に限られている。
広域処理予定(約400万トン)は、全体の約2割程度でしかないことから、処理の遅れの理由は広域処理が進まないこととは別にある、との指摘も出ている。東京新聞は3月20日付朝刊で、「被災地での処理体制を見直すのが先決ではないか」と指摘した。
3月20日には、野田佳彦首相の「指南役」ともされる細川護煕元首相が野田首相と会い、がれきと土砂で造った高台に木の苗を植えて森にする計画を提言した。野田首相は前向きな意向を示したという。