大丸や松坂屋を傘下に持つJ.フロントリテイリングは3月下旬、森トラストが保有するファッションビル大手のパルコの株式約33%すべてを譲り受け、筆頭株主に躍り出る。約12%のパルコ株を取得し、提携強化を進めていたイオンはメンツをつぶされた形だが、パルコ側の不信感が根強いうえ、敵対的買収も非現実的で、劣勢挽回は難しい状況だ。
しかし、流通業界では「イオンがこのまま引き下がるとは思えない」との見方も根強く、不気味な沈黙を守るイオンの出方が注目される。
「寝耳に水」と驚く
「パルコから事前にまったく連絡がなかった」
イオン幹部は今回の筆頭株主交代劇について憤りを隠さない。外資系ファンドなどからパルコ株を買い集め、昨年春にパルコに経営陣刷新を突きつけて業務提携にこぎつけたイオン。都心に若者向けの商業施設を展開するパルコのノウハウを取り込もうと、業務提携の具体化策の協議を進めていた。同じ小売業大手のJ.フロントが筆頭株主として登場することは「寝耳に水」(イオン幹部)だった。
ただ、肝心の提携協議はすっかり暗礁に乗り上げていたようだ。関係者によると、イオンが商業施設のテナント誘致などで協業を提案しても、パルコ側はのらりくらりとかわすだけで、ほとんど白紙の状態だったという。イオンの要求で社長を交代させられたパルコは、イオンへの警戒心を解いていなかったのだ。
一方、パルコ株の売却先を探していた森トラスト は今年1月ごろ、「真っ先にイオンに取得を打診した」(森トラスト関係者)。イオンにとっては、持ち株比率を上げる絶好のチャンスだったが、イオンは取得断念を伝えてきたという。パルコとの信頼関係が深まっていない中で株を買い増せば、ますます関係がこじれてしまうと判断したようだ。
再び争奪戦の幕が上がるのか
ところが、そこへ登場したのが、斬新な百貨店づくりを標榜し、若者取り込みを図っているJ.フロントだった。話はトントン拍子に進み、J.フロントは2月24日にパルコ株取得を発表。パルコも「(都市部に展開する)J.フロントとは業務上の共通点も多い」とコメントし、「ホワイトナイト」の登場に喜びをにじませる。
パルコ側に配慮したのに裏切られた形のイオンは怒り心頭だが、業界では「J.フロントに33%を抑えられては動きようがない」との見方が多い。また、J.フロントのパルコ株の取得額は、直近の終値を約6割上回る1株1100円。イオンはパルコ株を計約85億円で取得したが、仮にJ.フロントに1株1100円で売り渡せば約111億円となり、一定のリターンが得られる。
業務提携の具体化が一段と困難になった今、イオンはパルコ株の売却益を得て撤収するのが自然と思われるが、業界では「一筋縄ではいかない」とみる向きも多い。イオンはかつて、持ち帰り 弁当チェーンのオリジン東秀の買収でドン・キホーテとTOB(株式公開買い付け)合戦を繰り広げるなど、M&A(企業の買収・合併)では積極的な姿勢で知られる。パルコのノウハウがどうしても必要と判断すれば、強硬策に出る可能性も否定できない。パルコ争奪戦の幕が再び上がるのか、予断を許さない状況といえそうだ。