分子標的薬と分類される新タイプの抗がん剤による皮膚障害が医療現場で大きな問題になっている。この現状や対策をテーマにしたメディア向けのセミナーが2012年3月16日、東京で開かれ、国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科の吉野孝之医長が、使用開始時からの予防的治療の必要性を訴えた。
勤務医はおおむね正しい治療
分子標的薬は、がん細胞特有の分子を攻撃する狙いだが、現在承認されているものは未完成で、皮膚などの正常細胞をも障害する。吉野さんは大腸がんで用いられるセツキシマブとパニツムマブを例に現状を報告した。
2つはがん細胞に過剰に出ているEGFR(上皮細胞増殖因子受容体)分子を攻撃して、増殖を抑え、手術不能の再発大腸がんの生存期間を平均6カ月から4倍に延長した。その一方で、皮膚や毛、爪の増殖や分化も抑制するために高率で、顔などにひどいニキビ状の皮疹、指の亀裂、爪周囲の炎症など起こす。
吉野さんは、2つの抗がん剤が効かない4割の患者をふるい分けする遺伝子検査でむだな医療費が減らせることを指摘した。そのうえで、使用当日から抗生物質「ミノマイシン」を飲み、保湿剤およびステロイドの塗り薬の「三者併用」で激減でき、状態も改善できることを強調した。
また、東京女子医大皮膚科の川島真教授は、皮膚科医を対象としたアンケート調査の結果を紹介した。大学病院や大病院勤務医の半数は、分子標的薬による皮膚障害を 1年間に10例以上験しているが、開業医は5例以下が8割を占めた。
勤務医はおおむね正しい治療をしていたが、開業医はステロイド剤や抗生物質の使用率が低く、ニキビ治療で使う抗菌剤の塗り薬が多い、など、治療内容に問題があった。
川島さんは「皮膚科医がもっと知識を深め、がん専門医と協力してよい治療にしなければいけない」と強調した。
(医療ジャーナリスト・田辺功)