長野県の公立高校入試の数学が難しすぎると県教職員組合が教育委員会に抗議したと報じられ、ネット上で話題になっている。
学力低下が叫ばれる中で擁護の声もあり、論議になっているようだ。
県教組が教育委員会に抗議する事態に
「2時間目の数学が終わった後に、廊下で泣き出した受験生も何人かいました。それ以降の試験も動揺してしまったり、ショックで翌日の授業を欠席したりするケースも聞きました」
県教組の書記長は、取材に対し、こう明かす。
5教科を試した入試は2012年3月7日に行われ、数学は、大きな設問が問4まであった。ところが、県教組によると、設問は全体的に非常に難しく、緊急調査した結果、上のような不満の声が多数寄せられた。例年なら順々に難しくなっていくところ、問2から急に難しくなっているという。
県教組では、現行の学習指導要領を逸脱していると判断し、15日になって県教委に抗議し、外部評価を行うよう申し入れた。書記長は、こう話す。
「平均点が20点ぐらい下がったとの声もあり、例年なら40点台後半なのに、今年は30点台が現実になりそうです。これでは、塾通いしなければならない生徒が増えますし、学校も塾レベルの授業をしないと対応できなくなります。限られた時間内で適切な問題なのか、数学の教師からも疑問の声が出ていますよ」
ほかの教科についても、全般的に難しかったという。ここ3年ほど5教科の平均点は落ちており、ゆとり教育による学力低下が問題視される中、県教委が成績を伸ばしていきたい意図もあるのでは、とみている。
県教組の抗議に対し、県教委の教学指導課では、指導要領の範囲で出題していると説明した。ただ、問題の難易度については、試験結果が公表される際の6月定例会で議題にすることを明らかにした。
泣き出す受験生などがいたかは、分からないという。学力低下問題については、「特に意識しているわけではなく、わざわざ難しくしたということはありません」と言っている。
新指導要領先取り?「思考力試すいい問題」
数学が難しすぎるかについて、ネット上では、賛否両論があるようだ。
問題がアップされており、それを見て、50分で解くのは難しく、数学をあてにしていた受験生に不利では、といった感想が多い。進学校以外では、差がつかないのでは、との指摘もある。一方で、差がつきやすくていいし、学力アップにつながり日本の将来にもいいとの見方も多く出ている。
長野県の塾大手「信学会」では、学習企画課の担当者が、数学についてこう指摘する。
「確かに、難しいとは思いますね。受験生が初めて見る4月実施の新指導要領のひな形となる問題が出ており、馴染みがなかったからです。一生懸命に勉強した人は、悔しかったのでは。今回は、もっと配慮すべきだったと思います」
新指導要領では、思考力を試す数学になっており、2ケタの数の積を簡単に計算できる方法を考える「問2 (1)」の設問は、その種のものだという。総じて、1問1問が凝った作りになっているそうだ。
過去問なら70~80点取る生徒も、今回は50点を割りそうで、平均点はかなり下がるとみている。
「ほかの教科でも、新指導要領を意識しているところが垣間見られました。思考力を試すには、いい問題だと思いますが…」
県内の別の塾でも、塾長が「やっていないものが出ていたので、難しかったですね」とこぼした。5教科で400点取る塾生も、今回は340~350点だという。塾長は、初の公立中高一貫校が12年度に県内で開校する流れの中で、県教委も学力アップを進めているのでは、とみる。ただ、その取り組みについては評価し、「やさしいことをしていれば、高校に入ってから伸びません。私は、教科を難しくするのはいいことがと思っています」と話した。