国内証券最大手の野村ホールディングス(HD)は2012年3月6日、傘下の国内事業中核子会社である「野村証券」の社長に永井浩二副社長(53)が昇格する人事を発表した。渡部賢一社長は退任し、野村HDのグループ最高経営責任者(CEO)に専念する。柴田拓美副社長(59)も退任し、野村HDのグループ最高執行責任者(COO)に専念する。
また、野村証券の執行役会長に多田斎副社長(56)が就く。野村HDは2001年に現在の持ち株会社体制に移行後、持ち株会社のトップが野村証券のトップも兼任してきたが、初めて分ける。
海外売り上げ比率は、今や4割程度に上昇
野村HDは今やグローバルな金融機関であり、「日本、米国、欧州、日本を除くアジア」の世界4極体制をより明確にするため、日本以外の3極と同様に、HDのCEOとは別の責任者を置く。そのことでマザーマーケットである国内事業の基盤をより強化し、業績向上につなげる――。まあ、こうした趣旨ではあるようだ。
実際、野村HDは2008年秋に旧リーマン・ブラザーズから欧州、アジア部門を買収して以降、グローバル化が進んでいる。買収以前は1割程度だった海外収益(製造業などでいう「売上高」)比率は、今や4割程度に上昇している。
ただ、利益の源泉は依然として国内事業であり、海外の赤字を国内の利益で穴埋めしているのが実情だ。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが11年11月に野村HDを格下げ方向で見直すと発表したのも、財務体質の良さを高く評価しながらも赤字続きの海外事業を抱える利益体質に懸念を示したためだった。
野村の日本人社員に溜飲を下げさせる
こうした中、持ち株会社のCEOは、強まる規制監督などの動きも含めた世界全体の状況を見ながらの舵取りに徹し、かたや「米びつ」(幹部)である国内事業は個人、法人の営業に精通した永井氏に委ねることにしたのであろう。
今回の野村の人事については、各方面から様々な解説が聞かれるが、「後継体制の構築開始」の一方、「渡部CEO体制の長期化」との見方も案外、多く聞かれる。
2008年4月に古賀信行野村HD社長(当時、現会長)の後任に渡部氏が昇格して丸4年。古賀氏の在任は5年間で、さらにその前任の氏家純一氏は6年間だった。渡部氏がそろそろ次期体制を考え始めても不思議ではない。しかし、永井次期野村証券社長が「帝王学」を学んで後継になる、とは必ずしも見られていないのだ。
つまり、1月に相次いで野村HDを退任した旧リーマンのジャスジット・バタール副社長(法人向けのホールセール部門CEO)とその腹心のタルン・ジョットワニ専務の人事と「セット」ではないか、との見方だ。赤字を垂れ流すうえに高給取りだったリーマンの親玉を退任させる一方で、野村を支える国内営業部門の成績優秀者である永井氏を、考えられる限りの上位ポストにつける。これによって野村の日本人社員に溜飲を下げさせ、渡部体制の求心力強化につなげる――。
実際、今や野村HDのトップとなるとバーゼルⅢなど規制への対応もあり、「国内営業一筋の人が適任か」という見方がないわけでもない。業界には「後任が見えない」との声もあり、渡部政権が長期化する可能性もある。