強烈な揺れ、砂の多い土質が原因に
藤沼ダム決壊を受けて福島県は、専門家3人による「農業用ダム・ため池耐震性検証委員会」を組織。委員会は2012年1月25日に調査報告書を提出し、その中で盛り土の土質を決壊原因のひとつに挙げた。大部分が流出したダムの上部盛り土は、太平洋戦争直後の施工条件が悪い時のもので、砂を多く含む質の低い土が使われていたとの結論を出した。
ダムの堤体も、「全体的に締固め度が近代的な施工方法と比較すると小さく」、地震発生時にダムが排水していない状態になっていると、堤体の盛り土の強度も小さくなる。この状況下で「過去に経験したことのない地震動」だったため、決壊につながったと報告書はまとめている。
過去に実施された漏水対策や取水設備の改修に問題はなかったのか。報告書では、「当時の一般的な工法から選定した漏水対策」が行われたことに触れ、止水効果は発揮されていたとする。被災前の点検でも異常は報告されておらず、定期点検の範囲では堤体が安定な状態にあり、特別な対策を講じなければならない状態ではなかったとした。
震災直後から藤沼ダムの調査を手がけている福島大学共生システム理工学類の川越清樹准教授はJ-CASTニュースの取材に対して、戦時中から戦後間もない混乱期にかけてつくられた事実を挙げて、「当時の施行で不備な面はあったでしょう」と、検証委員会が出した調査結果と同様の考えを示した。一方で、近年の点検や改修について「補強工事の後に土質の強度を確認する測定作業が重要ですが、どこまで徹底していたでしょうか」と疑問を投げかける。
ただ今回の事故は、巨大地震の発生という特殊要因もあり、施工だけでなく複雑な要素が絡み合っていると川越准教授。福島県内には藤沼ダムと同じ「アースダム」が40か所余りあるが、須賀川市以外で震度6強を観測したのは、東京電力福島第一原子力発電所の周辺地域など、ごく限られている。強烈な揺れに砂の多くてもろい盛り土の質の低さ、さらに現地の地質の特性といった条件が重なったことが、全国で唯一のダム決壊という最悪の事態を招いてしまったようだ。
川越准教授によると、小規模なダムや農業用のため池を合わせると、全国で20万か所に上るため「今すぐすべてを補修するのは、現実的とは言えません」。第一段階として、ダムの強度の現状をチェックする必要性を説く。また、自治体でもダムが決壊した場合を想定した「ハザードマップ」を作成し、近隣住民の理解を促すことも提起した。