農家の「こせがれ」には親にはない発想力がある
――菜穂子さんは最初実家の果樹園を継ぎましたよね。「ガールズ農場」のアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
菜穂子 最初は父の後にくっついて、りんごやさくらんぼを作っていましたが、生産以外のことも学びたいと思い「国立ファーム有限会社」に入社しました。そこでは販売やレストラン事業のノウハウを教えてもらいましたが、「人と同じことをしていてはダメ」ということが一番印象に残りました。
わたしが他の人と違うところはどこだろうかと考えたとき、やはり「女性」。農家を継ぐと言ったとき本当に驚かれたので。それで「山形ガールズ農場」を2009年に作ったんです。
――どんな活動をされているのですか。
菜穂子 山形県村山市に、約150アールの田んぼと80アールの畑を持ち、生産から加工、販売まですべて自分たちでやっています。最近だと、炊きあがりの色や香りが違うお米や、小玉スイカ、白いナス、プリンや日本酒も作っています。
――女性らしい感性を活かした商品作りですね。お2人から見て、いまの農業のどんなところが問題だと思いますか。
宮治 昔は、農家が生産に集中していれば一生暮らしていけましたが、いまは自分で考えて動いていかなくてはいけない時代です。でも農家は高齢化の一途をたどっていて、技術はあるけど新しい「発想」を出せる人がいなくなっています。いまこそ挑戦していかなきゃいけないのに、イノベーションを起こせる若者がいない。それが1番の問題だと思います。
――どうすればそういう若者が増えると思いますか。
宮治 取り込みたいのは、都会で働いている農家の子どもたちです。「農家は食っていけない」と言われて都会に出された若者に、成功例を示すことができたらと思い、2009年に「農家のこせがれネットワーク」を立ち上げました。都会にいる農家のこせがれ(子ども)たちに「考えて動く場」を提供しようというものです。
たとえば、実家で作った作物を六本木のマルシェで売る、レストランに営業に行く、知り合いのデザイナーに商品パッケージのデザインを依頼してみるなど、東京だからこそできることを一緒に考えていきます。
もともと、都会のこせがれたちにはビジネスの経験があるので、親にはない発想やネットワークがあります。それらをうまく使い、考えて動ける農家になってくれたら、日本の農業はかなり変わると思います。
――「こせがれ」がこれからのキーパーソンになるわけですね。菜穂子さんはいかがですか。
菜穂子 わたしも、農業はこれまで人材を育てることにあまり投資してこなかったのだろうなと思います。女性もそのひとつなのでしょうね。女性は子どもを産んで後の世代につなげていけるので、「命をつないでいく」という意味でも、継続した農業イノベーションになっていけばうれしいです。