野田佳彦首相が過去に、消費税などの増税を「治りかけていた日本経済を肺炎にしてしまった」と、強い口調で批判していたことがわかった。
自らの過去の発言が、現在の発言と整合せずに批判の対象となる「ブーメラン現象」は、民主党ではたびたび起こってきた。今回も、同様の批判が出る可能性もありそうだ。
定率減税半減は「後ろからけさ切りをするような『だまし討ち』」
野田政権が進めている消費税率の引き上げをめぐっては、連立相手の国民新党や民主党内からも反発の声があがっているが、政府は早ければ2012年3月23日にも関連法案を閣議決定して国会に提出したい考えだ。
だが、野田首相は、野党時代には消費税の増税を強く批判していたのだ。特に厳しい批判を展開していたのは、05年1月25日の衆院本会議。野田氏は、小泉純一郎首相(当時)を前に、05年度の税制改正で定率減税の半減が盛り込まれていることについて
「大事なことは、こういう増税という話を自民党の政権公約には盛り込んでいなかったということ。こんな後ろからけさ切りをするような『だまし討ち』をなぜするのか」
と、マニフェスト違反を指摘した。さらに、その影響について質す中で、
「そこで思い起こしていただきたいのは、97年当時のこと」
と、97年4月1日に消費税が3%から5%に引き上げられた経緯に触れた。このときの首相は、橋本龍太郎氏(06年死去)だ。橋本氏が日本歯科医師連盟が自民党所属の国会議員に闇献金を行っていたとされる「日歯連闇献金事件」への関与が取りざたされていたことを念頭に、野田氏は、
「今国会でも恐らく焦点の人になるであろう、政治と金との問題で焦点の人になるはずである、ポマードで髪の毛を塗り固め、最近はいろいろなことを忘れてうそで顔を塗り固めている方が総理大臣だったころ…」
と橋本氏を揶揄。その上で、
「消費税を上げ、医療費を引き上げ、定率減税を引き下げて、風邪から治りかけていた日本経済を肺炎にしてしまった。同じことをまた繰り返そうとしているのか」
などと増税批判を展開した。これに対しては、小泉氏は
「十分な審議を尽くしており、『だまし討ち』との批判は当たらない」
と反論している。
政権交代後も「肺炎」の例え
なお、野田氏は、政権交代後にも、国会で肺炎の例えを使っている。11年8月23日の参院財政金融委員会で、財務相という立場で
「何かミスター増税みたいなイメージがあるようでありますけれども、税制の措置は避けて通れないことはある」
と、増税の必要性を強調する中で、
「やはり風邪を引いているときに冷たい水を浴びせたら肺炎になるという、そういう教訓はあるわけだから、そういうことは十分勘案をする」
と述べている。
経済状況が悪化した際には増税を停止する「景気弾力条項」をめぐっては、民主党内からは経済成長率などの具体的な数値目標を盛り込むよう求める声が相次いだが、執行部は手足を縛られることを嫌ってこれに否定的。議論は紛糾している。
この野田首相の過去の発言は、12年3月14日、増税に批判的な民主党の有田芳生参院議員と俳優の松尾貴史さんとのツイッター上のやり取りで取り上げられ、発言が大量にリツイート(転送)されるなど話題になっていた。