円安が急激に進んでいる。2012年2月の円安時には1ドル76円台だった米ドル円相場は、この1か月でじつに10%近くも円が下落した。
東京外国為替市場のドル円相場は3月14日、前日(17時)に比べて80銭近く円安ドル高の1ドル83円台前半で推移している。円は5日続落で、約11か月ぶりの円安ドル高水準を付けた。少々過熱ぎみとも思えるが、「潮目が変わり、円安トレンドはしばらく続く」との見方も出始めた。
「貿易赤字」に日銀の追加金融緩和が後押し
いまの円安の背景には、日本の貿易収支が赤字になったことがある。2011年の貿易収支は、マイナス1兆6089億円と48年ぶりに赤字に転落した。
みずほコーポレート銀行国際為替部マーケットエコノミストの唐鎌大輔氏は、「海外投資家を中心に、日本の貿易赤字を重く受けとめていて、貿易赤字→経常黒字の縮小→日本国債の暴落と、これらがひと括りにされて語られることが増えました」と話す。
そういった円売りムードがくすぶるなか、「絶妙」のタイミングとなったのが2月14日に、日銀が10兆円もの資産買い入れ枠の増額を発表した追加の金融緩和策だ。 さらに、米国経済に明るさが見え始めたこと。失業率が低下して個人消費も底堅い動きになってきた。欧州危機も、やや遠のいた。
こうした要因から、円売りドル買いの動きが活発化して、専門家の中にも「円安トレンドに傾いた」、「いまの円安はホンモノになる可能性が高い」と見る向きが少しずつ大きくなってきた。
また3月に入ってからは、国内の輸入企業が決済目的で円を売ってドルを調達する動きを強めたことも、円安につながった。
「6月以降を見てみないことには…」
たしかに、日銀の追加の金融緩和策はそれまでの75円台という「超円高」の流れを止めたのは確かだ。
貿易収支の先行きについても、家電製品などの輸出品の競争力が韓国、中国などに押されて相対的に低下していることや、主な輸入品であるエネルギー資源や穀物の価格がこのまま高止まりすると、大幅な黒字基調に復帰することが容易ではないことは想像がつく。それは長期的には、円高傾向に歯止めをかけることになる。
となると、やはり「円安トレンド」に潮目が変わったのではないか――。
ところが、「まだそうとは言いきれない」と、前出のみずほコーポレート銀行の唐鎌氏はいう。そして、こう説明する。
「おそらく12年の貿易収支は昨年よりだいぶ改善できるとみています。そもそも、1か月に10%近くの(ドルの)上昇が長続きするはずがありません。いまの円安が行き過ぎとみるべきです。米国景気も例年3、4月は好調です。6月以降を見てみないことには回復基調に乗ったとは言い切れません」
「1ドル90円」という声を聞かないわけではないが、唐鎌氏は「貿易収支の回復しだいですが、円が下がっても1ドル85円台でしょう」とみている。