原油価格の上昇が世界経済の最大の懸念材料になってきた。世界的な金融緩和とイラン情勢が影響している。
もしイランとイスラエルが武力衝突するような事態になれば、需給が一気に逼迫、さらなる高騰が避けられない。
あふれるカネが原油市場に流入
ニューヨーク市場では2012年3月に入り、指標となるテキサス産軽質油(WTI)の4月渡し価格が1日、約10か月ぶりの高値となる1バレル=110ドル台まで上昇した。その後も概ね同104~107ドルの範囲で推移している。
WTI以上に上げが目立つのが中東のドバイ原油で、3月第1週から同120ドル台をつけ、同141.33ドルの史上最高値を記録した2008年以来の水準まで上昇している。
原油高は世界経済を脅かしつつある。石油情報センターによると、日本国内のレギュラーガソリンの平均価格(1リットルあたり、3月5日時点)は前週より3.7円高い149.2円と150円寸前まで上昇。昨年8月15日(150.2円)以来の高値をつけた。
円相場が1ドル=80円台と、1カ月前に比べ5円ほど円安に振れているのも一因だ。「原油価格が10%上昇すれば日本のGDPは0.1~0.2%下がる」(シンクタンク)との試算もあり、復興需要による景気の回復を妨げかねない。
現在の原油高の要因の第1は世界的な金融緩和が背景にした金余りだ。世界の中央銀行は利下げと量的緩和を競い、あふれるカネが原油市場に流れ込み、相場が跳ね上がった。特に米連邦準備制度理事会(FRB)がいずれ「量的緩和の第3弾」(QE3)に踏み切る、との思惑も投機筋の買いを誘っている。
イスラエルのイラン爆撃が最大の懸念
だが、ここへきての急上昇の原因は「イラン危機」だ。イランの原油産出量は日量3万バレル以上で、石油輸出国機構(OPEC)の10%余りを占め、サウジアラビアに次ぐ。そのイランの核開発をめぐり、欧米が制裁を強化、禁輸などの措置を打ちだし、対抗してイランはホルムズ海峡の封鎖を示唆するなど事態は緊迫の度を増し、原油相場を押し上げている。特にイランの国会議員選挙で、最高指導者ハメネイ師支持派が圧勝したことで、対外姿勢がより強硬になるとの懸念が高まっている。
そこで世界が注目するのがイスラエルによるイラン核施設への空爆の可能性だ。イスラエルのネタニヤフ首相が訪米し、5日にオバマ大統領と会談。イランの核問題で、大統領が制裁強化による外交的解決を目指すべきだとの立場を改めて強調したのに対し、首相は、イランが核兵器製造能力を持つ前に先制攻撃すべきだとの立場を繰り返し、議論は平行線をたどった模様だ。
同日、イランが、原爆の起爆実験が行われた疑いのある首都テヘラン近郊の軍事基地について、国際原子力機関(IAEA)の立ち入り調査を条件付きで認める考えを表明するなど、事態はなお流動的だ。
日本の外交筋の間でも「イスラエルは本気」との見方が強まっていると言い、その場合、4月以降の空爆が考えられるという。万一そうなれば、イランや、イランの影響下にあるレバノンのイスラム原理主義組織ヒズボラなどがミサイルで反撃するなど、中東全域に武力衝突が広がる可能性が高い。
イスラエルの先制攻撃とあれば、サウジなど穏健派産油国も増産要求に簡単に応じるとは限らない。なにより、海上輸送される(世界の)原油の約35%と、世界の液化天然ガス(LNG)の約33%が経由するとされるホルムズ海峡をタンカーが安全に航行できなくなり、原油の需給は一気にひっ迫する事態も想定される。市場では「実需は1バレル=100ドル以下が妥当」との見方が一般的だが、イラン危機の動向によっては、WTIで2008年7月の史上最高値147ドルを超えるのは必至との見方が大勢だ。
世界的な景気減速の中での原油価格上昇は、世界経済には大きな重荷になりかねない。経済成長を伴わない「悪い物価上昇」で、不況なのに金融を引き締めて物価上昇を抑えなければならないといった苦しい選択を迫られかねない。