イスラエルのイラン爆撃が最大の懸念
だが、ここへきての急上昇の原因は「イラン危機」だ。イランの原油産出量は日量3万バレル以上で、石油輸出国機構(OPEC)の10%余りを占め、サウジアラビアに次ぐ。そのイランの核開発をめぐり、欧米が制裁を強化、禁輸などの措置を打ちだし、対抗してイランはホルムズ海峡の封鎖を示唆するなど事態は緊迫の度を増し、原油相場を押し上げている。特にイランの国会議員選挙で、最高指導者ハメネイ師支持派が圧勝したことで、対外姿勢がより強硬になるとの懸念が高まっている。
そこで世界が注目するのがイスラエルによるイラン核施設への空爆の可能性だ。イスラエルのネタニヤフ首相が訪米し、5日にオバマ大統領と会談。イランの核問題で、大統領が制裁強化による外交的解決を目指すべきだとの立場を改めて強調したのに対し、首相は、イランが核兵器製造能力を持つ前に先制攻撃すべきだとの立場を繰り返し、議論は平行線をたどった模様だ。
同日、イランが、原爆の起爆実験が行われた疑いのある首都テヘラン近郊の軍事基地について、国際原子力機関(IAEA)の立ち入り調査を条件付きで認める考えを表明するなど、事態はなお流動的だ。
日本の外交筋の間でも「イスラエルは本気」との見方が強まっていると言い、その場合、4月以降の空爆が考えられるという。万一そうなれば、イランや、イランの影響下にあるレバノンのイスラム原理主義組織ヒズボラなどがミサイルで反撃するなど、中東全域に武力衝突が広がる可能性が高い。
イスラエルの先制攻撃とあれば、サウジなど穏健派産油国も増産要求に簡単に応じるとは限らない。なにより、海上輸送される(世界の)原油の約35%と、世界の液化天然ガス(LNG)の約33%が経由するとされるホルムズ海峡をタンカーが安全に航行できなくなり、原油の需給は一気にひっ迫する事態も想定される。市場では「実需は1バレル=100ドル以下が妥当」との見方が一般的だが、イラン危機の動向によっては、WTIで2008年7月の史上最高値147ドルを超えるのは必至との見方が大勢だ。
世界的な景気減速の中での原油価格上昇は、世界経済には大きな重荷になりかねない。経済成長を伴わない「悪い物価上昇」で、不況なのに金融を引き締めて物価上昇を抑えなければならないといった苦しい選択を迫られかねない。