いわゆる「国歌起立条例」がある大阪府の府立高校卒業式で、校長の指示を受けた教頭らが、君が代を教職員が歌っているか口の動きを確認していたことが表面化した。歌っていなかったことを後に認めた1人を府教育委員会に報告したという。
条例成立時に知事だった橋下徹・現大阪市長は、「当たり前」と校長を支持する一方、府教育委員の中には「あまりに厳格な運用」に異論も出ている。ネット上でも「当然」、「やりすぎ」と賛否両論の声があがっている。
校長は、橋下市長の友人で弁護士
2012年3月13日付朝刊の読売新聞などによると、2日にあった府立和泉高校の卒業式で、中原徹校長が教頭らに指示して、約60人の教職員が国歌斉唱時に起立しているかだけでなく、歌っているかについて口の動きを確認した。「口が動いていなかった」3人から事情を聞いたところ、うち1人が歌っていなかったことを認めたため、府教委へ報告したという。
中原校長は、橋下市長の友人で弁護士。橋下市長の府知事時代に民間人校長として就任した。
府教委に取材すると、府教委は卒業式シーズン前、府立学校の全職員に起立斉唱を求める職務命令を出した。「国歌起立条例」の成立を受けた形で、今回が初めてだ。過去には校長が独自に同様の職務命令を出したことはあった。
3月9日には、2月末までにあった卒業式で起立しなかったとして、17人を戒告処分にしたと発表した。3月も卒業式が行われており、処分事例は増えそうだ。
条例には処分規定はなく、処分実施とは直接の関係はない。職務命令違反を理由に不起立の教職員が処分される例は、大阪府のような条例をもたない自治体でも全国的にあり、中には訴訟に発展する場合もある。
今回の「不斉唱」は、職務命令違反として処分対象になるのか。府教委によると、「不斉唱」教職員の報告が来ているかどうかは「公表していない」とし、一般論としても「起立と斉唱は一体的に捉えているが、『起立はしたが不斉唱』が処分対象になるかどうかは検討中」だ。
橋下市長は3月13日、記者団に対し、「職務命令なわけですから、それを忠実に守ったということで、これは当たり前といえば当たり前のこと」と、中原校長の対応を支持し、「そこまでやっていない大阪府の高校の現場の方がおかしい」と話した。
一方、府教委の生野照子教育委員長は、読売新聞(13日付朝刊)によると、「あまり厳格にすると、逆に法の精神が失われないか心配だ」と懸念を示した。
不起立で処分、2010年度は全国で21人
大阪府立高等学校教職員組合の志摩毅委員長に話をきいた。
そもそも、「不起立17人を処分」は不当で撤回すべきだと考えている。まして、不斉唱を問題視する姿勢には大反対だ。
不起立については「行事にふさわしい秩序を乱す」といった批判があるが、不斉唱にはそうした影響はないとして、斉唱の命令には「そこまで人格支配を強制するのか」と反発した。
また、「国歌斉唱」時に教職員のチェックを行っている人たちは、国歌への敬意を払っておらず、チェックのために見回す行為の方が式の秩序を乱すことになるのでは、との考えも示した。
橋下市長は、大阪市でも府と同様の「起立条例」を提案し、成立させている。産経新聞は3月5日付朝刊の社説にあたる「主張」欄で、市の条例成立を「服務規律の厳格化」などの点から歓迎し、橋下教育改革を「全国の自治体に広げよう」と評価している。
ネットのツイッターや2ちゃんねるをみると、
「(職務命令が出ているので、斉唱しているか)確認するのは当然」「日本人なら、しっかり唄いなさい!」「教員しっかりしなさい」
と「斉唱確認」を支持する声がある一方、
「これはやりすぎ」「さすがにネトウヨ(ネット右翼)ニートもどん引き」「北朝鮮と変わらんな」
といった反対の声も並んでいる。
文部科学省によると、2010年度には「校長からの職務命令に従わず、国歌斉唱時不起立」で懲戒処分を受けた公立学校の教職員は、東京都や広島県などで計21人(停職1、戒告15など)。
教育委員会月報などで過去10年程度の処分例と処分理由をみる範囲では、明確に「起立したが不斉唱」を理由に処分した例はみつからなかった。