警視庁が「脱法ドラッグ」を使った男性をコカイン使用の容疑で誤認逮捕していたことが分かった。それだけ成分が似ていたらしいが、なぜそんな「危ない」ものが堂々と流通しているのか。
「部屋に5人ぐらい押しかけてきている」
きっかけは、東京都内の無職男性(27)が2012年3月9日昼過ぎに自らこう110番したことだった。
コカインを使用したと誤認逮捕
警視庁小金井署員が駆けつけたところ、部屋には男性しかいなかった。さらに聞くと、不審な言動をしたため、任意同行した結果、ズボンのポケットに白い粉末の入ったプラスチックケース3つを所持しているのが分かった。粉末を簡易鑑定すると、コカインのような反応が出たために現行犯逮捕した。ところが、警視庁科学捜査研究所で12日に正式鑑定したところ、「脱法ドラッグ」の1つと判明した。
通称「α-PVP」と呼ばれるもので、コカインと同様、幻覚が現れるなどの症状を示すという。しかし、吸引しても違法とはならず、尿検査でもコカインの反応はなかったため、男性はこの日のうちに釈放された。このドラッグは、東京・新宿で買ったといい、男性は「合法ドラッグだ」と主張したとしている。
薬事法では、厚労省が指定した薬物68種類の販売、譲渡などを禁止しているが、α-PVPは、この中にすら入っていない。
この種類に限らず、成分の分子構造を一部変えただけの「脱法ドラッグ」が、専門店や自販機、ネット上などで多数流通している。そして、ドラッグを吸引して、意識障害や呼吸困難などに陥り、救急搬送されるケースが全国で相次いでいると報じられている。中には、死亡例もあるようだ。
「合法ハーブ」のイメージで売る
α-PVPなど指定外薬物も、吸引するために販売すれば、無許可医薬品として薬事法違反になる。しかし、薬物を乾燥した葉に混ぜ、お香などの名目で「合法ハーブ」として売っている場合がほとんどだ。専門店などでは、パイプなどは別に売るなどして、言い逃れしている面もあるようだ。
東京都の薬事監視課によると、2009年度には「脱法ドラッグ」を扱うのが2店舗しかなかったのが、12年2月6日現在で93店舗にまで急増した。ヨーロッパで数年前、「スパイス」の商品名などの合法ハーブが流行し、3、4年前から日本にも入ってくるようになったからだという。
薬事監視課長は、「ドラッグというと引いてしまうかもしれませんが、ハーブと言えば体に悪くないのではと、興味本位で手を出すようになったようです」と分析する。
1袋3000~5000円と高いので、店側にも利益が出るという。
都が脱法ドラッグの買い上げ調査に乗り出したため、店を閉めるところも出て、3月5日現在では79店舗にまで減った。しかし、ある系統の薬物だけで数百種類もあるといい、当局とのイタチごっこは続いているようだ。
厚労省では、分子構造が似ていれば規制対象にする「包括指定」の検討を始めた。都の薬事監視課によると、今後はさらに、使う側が「合法ドラッグ」と言い逃れできないように、所持規制することも検討課題だそうだ。