「思ったほど大変ではない」除染作業
柏市では震災後、母親たちによるグループがつくられ、放射能対策に取り組んでいた。当初、父親は参加に消極的だった。放射能の危険性について、母親はとても不安に感じるが、父親は「大丈夫だろう」ととらえ、夫婦間で「温度差」があったのでは、と川田さんは考える。仕事の関係で動きづらかった男性もいたことだろう。
川田家でも、夫人が大変心配していたため、川田さんが「安心させてあげよう」と状況を詳しく調べ始めたのがきっかけだ。ところが調べを進めれば進めるほど不安材料が次々と出てきて、「行動を起こさなければ大変なことになる」と感じた。それまでなかった「父親グループ」をつくれば、夫婦の間、さらには市民の間でも生じている放射能の考え方の「温度差」を埋められるのではとも考えたという。
重要な活動のひとつが除染だ。実際に作業をした感想は「思ったほど大変ではありません」と川田さん。都市部である柏の場合アスファルトが多く、放射性物質が集まっている土の部分も限られている。汚染度の高い部分を特定し、スコップで取って移動させるだけで線量が下がるのだ。
高圧洗浄を行う場合もあるが、「子どもの生活の動線に沿って土を取り除くだけでも、効果が上がっています」と川田さんは話す。実際の作業を通して、極端に大掛かりな作業ではなく、安全防護策を施したうえでなら比較的簡単に取り組める「都市型除染」の方法を身につけた。
同時に、プロジェクトで積み上げたノウハウを公開し、情報を発信する大切さも強調する。「放射能の情報について感じたのは、正しいが専門的すぎて分かりにくいか、目を引くものの根拠に乏しいかのいずれかです。それは柏市民の実情に合いません」と川田さん。「ひとりの市民として放射能といかに向き合うか、どう対処しているかについて、私たちが実際に試した方法を知ってもらいたいと思います」。
高線量という現実を目の当たりにしながら、「どうしてよいか分からない」という声を多く聞いた。正しい情報の不足が原因で、目に見えない放射線にどう対処すればよいのかの解釈をめぐって夫婦でケンカになるケースもある。プロジェクトでは達成可能な目標を掲げ、柏市民なりの解決策を探るうえで「自分たちでできることをやろう」と呼びかける。