ソニー再生はトップの決断次第 エレキ中心に戻る手もある
ノンフィクション作家・立石泰則氏に聞く

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徹底したハイエンド製品を売る戦略を立ててもいい

――では「ソニー復活」のための処方箋は何だとお考えですか。

立石 エレキ中心の会社にするなら、世界的な映画会社「ソニー・ピクチャーズエンタテインメント」とSMEのエンタテインメント会社を上場して、その上場益全額をエレキ再建の投資に回す、そのぐらいの大胆な取り組みが必要でしょう。 今後は中国市場を無視できません。1億人ともいわれる中国の富裕層をターゲットに、徹底したハイエンド製品を売る戦略を立ててもいい。もともとソニーは「ボリュームゾーン」で勝負する企業ではないはずです。ソニーの強みは何だったのか、どうやってここまで成長してきたか、原点に戻って考えてみるべきでしょう。「サムスンがやるから我々も有機ELテレビを売る」という姿勢ではダメなのです。
   21世紀のモノづくりは、イノベーションがデバイスからアーキテクチャーやアルゴリズムへと移っていく中で変わって来ていると思います。例えば、テレビなら液晶パネルや有機ELパネルといったディスプレー・デバイスではなく、「絵作り」の技術、具体的にはデジタル信号処理の技術を強化するのがポイントになると思います。デジタル技術は「使い回し」ができますから、デバイスが何であれ有効だからです。デジタル時代の技術開発は、長い時間を必要とします。いったん開発をやめてしまうと、その間に技術革新がどんどん進んでしまうので再参入してもなかなか追いつけません。 ソニー固有の問題は、多くの優秀な技術者がソニーから去っている現実です。先述した「DRC」の開発者である近藤氏もそのひとりで、ソニーを出て「アイキューブド研究所」を立ち上げました。ソニーがテレビ事業再建に本腰で取り組むなら、近藤氏の力を借りるのもひとつの方法ではないでしょうか。

――新CEOとなる平井氏の力量をどのように評価しますか。

立石 CEO就任前の現時点では何とも言えません。平井氏も「今のままではダメ」と分かっているはずですから、周囲にどのような人材を配置するか、どんな戦略を打ち出すか、いかにリーダーシップを発揮するかは、4月1日の正式就任まで評価を待つべきでしょう。

――日本の家電メーカーは今後どうなるのでしょうか。

立石 ソニーの場合、課題は見えていますから、あとはトップが決断するかどうか。むしろ心配なのはパナソニックです。
   パナソニックは「販売の松下」と評され、市場の声を聞いて成長してきた会社です。近年、プラズマテレビに注力してきたパナソニックは、米法人の責任者から「米国の消費者がパナソニックの液晶テレビを見たいと言っている」と要請されても、中村邦夫現会長(2012年6月27日付で相談役に就任予定)は「ウチはプラズマで行くと決めているんだ」と突っぱねていた。これは市場の声を聞かなくなった証左ではないでしょうか。
   結果どうなったか。プラズマが「液晶陣営」に対して不利になると、プラズマパネルの生産工場を増設して強化を図ったものの、結局テレビ事業の縮小に伴いプラズマ2工場の閉鎖を決め、2月3日には、2011年度の連結最終損益が7800億円の赤字になる見通しを発表しました。正直、パナソニックはこの先どうなるか、何をしたいのかが見えません。


<立石泰則氏 プロフィール>

   たていし やすのり ノンフィクション作家・ジャーナリスト。1950年福岡県北九州市生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。雑誌編集者、雑誌記者を経て1988年に独立。

   著書『さよなら!僕らのソニー』(文春文庫)。『ふたつの西武』(日本経済新聞社)ほか、多数。


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