福島第1原発事故に伴う電力不足が長期化する中、政府が期待の新エネルギーの活用に動き始めた。我が国が世界有数の潜在力を誇る地熱発電だ。
だが、「埋蔵地」の大半は国立公園の中。開発の進め方で環境省と経済産業省のさや当てが続いており、急拡大する保証はない。
温暖化対策で規制緩和
地熱発電は、火山周辺などでマグマの熱を利用する発電方式だ。地下深部に浸透した雨水等が地熱によって加熱され、高温の熱水として貯えられているところに井戸を掘り、地上に熱水・蒸気を取り出し、タービンを回し電気を起こす。
世界有数の火山国である日本は地熱資源が豊富で、経済産業省などによると、推定で2000万~3000万キロワット発電できる資源がある。これは原発20基分以上に相当し、米国、インドネシアに次いで世界3位の地熱資源大国とされる。
問題はその資源の7~8割が国立公園内にあり、実際に発電に利用されているのは3%弱に過ぎないこと。政府は1972年、景観保護などを理由に自然公園の地熱利用を制限する通達を出して規制してきた。
このため、各国と地熱発電の設備容量を比べると、1位の米国が300万キロワット、以下、フィリピン、インドネシアなどが続き、日本は稼働中17カ所、53万キロワットと世界8位。年間発電電力量は2009年度時点で約29億キロワット時と、国内の総発電電力量の0.26%にとどまっている。
だが、2010年6月、主に温暖化対策として再生可能エネルギーを有効活用するため、規制を見直す方針を閣議決定。昨年の原発事故も受け、今年2月14日に環境省が、国立公園内での地熱発電の一部開発を容認する方針を正式に打ち出した。
国立公園は特別保護地区、第1~第3種特別地域、普通地域に分けて管理され、普通地域以外は開発が厳しく制限されてきた。このうち第2種、第3種特別地域の地下資源に限り緩和する。
もちろん、資源のすべてを開発できるはずはないが、専門家は「国内に約400万キロワット分の有望地域 がある」と指摘する。地熱発電は温暖化の原因になるCO2を出さないのはもちろん、太陽光や風力と違い、天候や季節に左右されず24時間安定的な電力供給が可能なのも大きな利点。設備利用率は原発並みの7割になるといい、脱原発を進める上で大きな戦力と期待される。
日本メーカーが世界の7割のシェア
地熱発電の技術力も日本の強みだ。2年前、ニュージーランドで世界最大の地熱発電所を完成させた富士電機をはじめ、三菱重工業、東芝を加えた3社で地熱プラントの世界市場で7割のシェアを占める。成長戦略の柱だった原発輸出が厳しくなる中、日本の新たなお家芸の有望分野でもある。
だが、問題はコスト、特にコストに直結する掘削方法の規制だ。開発を認めるのは国立公園外や公園内の普通地域から斜めに井戸を掘る「傾斜掘削」だけ。地上の景観には影響しないよう、垂直に井戸を掘ったり、地上に発電設備を設置したりするのは認めない方針だ。
業界関係者によると、井戸を1メートル掘るごとに約20万円、2000メートル級の井戸を掘るには4億~5億円必要。発電機器等を含め発電所の建設には総額数百億円、資源量調査から運転開始まで10年以上かかるのも足かせだ。斜めに掘れば井戸は長くなり、開発コストが跳ね上がる。
一般に地熱発電の1キロワット時当たりの発電コストは約20円と、石炭火力の2倍以上にもなるとされる。東北や九州などの蒸気量が多い地域では、1キロワット時当たり9.2~18.3円で発電可能との日本地熱開発企業協議会の試算もある。このため、7月からの、再生可能エネルギーで作った電力の買い取り制度で、買い取り価格がどのくらいに設定されるかに関係者は注目。「20円程度にならなければ普及は望めない」(業界関係者)との声が強い。
経産省は特別区域内で縦に掘れるよう、一段の規制緩和を求め、環境省と対立している。自然保護団体などは規制緩和を批判、温泉関係者の間では「地熱発電が「温泉の量や質に悪影響を与えないか」(東北地方の関係者)と心配する声もある。
地熱発電の本格開発に向け、ひとまず舵を切ったとはいえ、課題が山積している。住民や関係団体・事業者などの理解を得ながら、十分に情報を公開し、慎重に進める必要がありそうだ。