医療ミスを繰り返した「リピーター医師」が厚生労働省から戒告処分を受けた。「『リピーター医師』として行政処分されるのは初めて」と報じられている。
行政処分が「初」だからといって、「リピーター医師」が珍しいわけではなさそうだ。「処分される予備軍」の「リピーター医師」は他にもいるのだろうか。
前年も別事件で戒告処分
厚労省は2012年3月5日、医師と歯科医師で計38人の行政処分を発表した。
このうち三重県の産婦人科医院の塩井澄夫医師(71)は、2件(うち1件は死産)の分娩事故について、戒告処分を受けた。この2件は刑事事件にはなっていない。しかし塩井医師は別の医療事故が過去に刑事事件になり、罰金刑が確定、この件で2011年秋に戒告処分を受けていた。この前回処分も今回の判断に影響を与えたようだ。
今回の発表を受け、朝日新聞が「医療ミスを繰り返す『リピーター医師』として行政処分されるのは初めて」と報じ、読売新聞なども同様の記事を伝えている。
塩井医師はこれまでに上記を含め4件の医療ミスをしたとして、被害者側が医師免許取り消しを厚労省に求めていた。残る1件は、現段階では明確な不正が確認できていない、と判断されている。
塩井医師が受けた戒告処分は、「医師免許取り消し」と「1~3か月の業務停止」の3種の処分のうち最も軽い。
厚労省によると、処分内容は、医師の過失の度合いや当時の状況などを総合的に判断する。1件の医療事故で「医師免許取り消し」になった事例もある。機械的に「事故数」に応じて処分が重くなるわけではない。
過去にも、同じ医師が複数の医療事故を起こし、事故の数も考慮に入れて処分が下された例はあるという。
処分を受けた「ミスのリピーター医師」はほかにもいるようだが、それは、刑事罰が確定した医師に処分を出す際、ほかの過去の事故例も参考にした、ということのようだ。
今回の処分例は、刑事罰を受けた前年の処分に加え、刑事罰に問われなかった医療事故についても新たに処分が出た点が注目を集め、「初処分」報道につながったとみられる。
医師の処罰・処分には反対・慎重論も
以前は、刑事事件で罰金刑以上が確定した医療事故などが処分対象だったが、厚労省は2002年、刑事罰には問われない医療ミスでも明らかな過失があれば処分する方針に転じ、対象を広げた。
刑事裁判によらずにミスの事実認定をしなければならず、刑事事件以外の医療ミス処分は「3件だけ」(朝日新聞、3月5日配信記事)と少なかった。医療事故に関わる弁護士の中には、厚労省による認定作業の「事務的な足腰の弱さ」を問題視する声もある。
今回の塩井医師のように複数の被害者らが同じ医師の処分を厚労省に求めている事例は他にもあるのだろうか。
厚労省は「そうした数字があるかどうかを含め、答えられない」としている。
処分問題は別として、「リピーター医師」の存在は以前から指摘されていた。2003年7月23日付朝刊の読売新聞の社説は「医療事故 ミスを繰り返す医師には厳罰を」(見出し)と訴えた。
2005年には日本医師会が、「過去3年で3回以上の有責事故」を起こした「リピーター医師」を対象に医療防止事故研修会を行い、当時の報道によると対象者は約120人だった。しかし、研修会実施後の出席率は公表されず、翌年からは、対象を「リピーター医師」には限定しない形に変わった。医師会によると、現在も「リピーター医師に限定」しない形で続いている。
一方、医療界や法曹界の一部には、医療事故の再発防止の原因追及のためには、医師の刑事処罰は行うべできではなく、行政処分も慎重であるべきだとの意見もある。