東日本大震災の発生以降、噴煙らしきものが上がっている、雪が消えたなどとウソともホントともつかない「異変」が伝えられる富士山で、今度は「地面から湯気が出ている」のが見つかった。
気象庁が現地を調べたところ、湯気の温度は10度程度で、噴気音(噴出にともなう音)や硫黄臭もなく、また火山ガスに含まれる火山性物質も検出されなかった。
「かすかな水蒸気が白く見えた」
「富士山の湯気」は、2012年2月10日に山梨県側3合目の道路付近で発生した。道路管理の関係者の、「地面から湯気のようなものが出ている」との通報に基づいて、気象庁火山課などが確認に出向いた。
気象庁は、「たしかに湯気ではありましたが、温泉地のように湧き出しているように出ていたわけではありません。その日は外気がマイナス10度でしたので、そこに10度程度のかすかな水蒸気が出ていたのですから、ふだんよりも白く見えたと考えられます」と説明する。
その日の日中も調べを続けたが、気温が上昇したこともあって湯気は見えなくなった。気象庁は「ただちに噴火に結びつくものではない」と話している。
それにしても、富士山ではこうした湯気がよく発生するのだろうか、気象庁に聞いてみた。 「正直、それはこれまでもあったかもしれないし、なんとも言えないところなんです」とし、こう続けた。
「富士山には大小いくつもの空洞があって、そこから空気が湯気のようになって漏れ出てきたと考えられます。そのため、これまでも目には見えていなかったが(湯気が)出ていた可能性はないとはいえません。ただ、通報があって確認したのは、おそらく初めてに近いことかと思います」
気象庁はこのことを、2月29日に開かれた火山予知連絡会にも報告した。しかし、「全国の火山活動の評価」で、富士山は「噴火予報(噴火警戒レベル1 平常)」にあたり、特段火山活動に変化が認められないレベルにある。
ちなみに、現在火山活動が活発な鹿児島県の霧島山(新燃岳)は「火口周辺警報(噴火警戒レベル3)」だ。
山麓の富士河口湖町は冷静
気象庁は現在も「湯気」の温度観測を続けていて、「今のところ、温度が上がるなどの変化はありません」と話している。
地震活動や地殻変動のデータも特段の変化はなく、今回の現象は「現時点では、噴火活動と直接関連するものではない」と繰り返す。
しかし、富士山では東日本大震災の発生直後の11年3月15日に山頂の南南西約5キロメートル、深さ15キロメートルを震源とする静岡県東部地震(暫定値マグニチュード6.4、最大震度6強)が発生し、「それ以降、その震源から山頂直下付近にかけて地震活動が活発な状況となり、その後地震活動は低下しつつも継続している」と、火山噴火予知連絡会が報告している。
2012年1月28日には、山梨県で震度5弱を観測した地震が発生した。気象庁は「震災のあとですし地域に住んでいる方など、富士山の『変化』に敏感になっていることはあると思います」と話すが、山麓にあたる山梨県富士河口湖町は「富士山の湯気」をどう受けとめているのだろう――。
同町は「噴煙が上がったということではないですし、皆さん冷静でしたよ」(企画課)と話している。