トウモロコシやコメなど農産物の商品先物取引を扱う東京穀物商品取引所(東穀取)が、存亡の危機を迎えている。取引減少に伴い、手数料収入が減っているためだ。2012年2月から、解散も視野に入れた抜本的な経営体制の見直しを始めた。
「単独経営の選択肢もある」(渡辺好明社長)というものの、折しも「総合取引所」を実現する法案が提出されることもあり、東京、大阪両証券取引所の統合会社「日本取引所グループ」への合流が現実的と見られている。
コメ先物の試験上場も期待はずれ
金などの貴金属や原油といった天然資源なども含めた「コモデティー」と呼ばれる商品先物取引は、世界的には成長を続ける金融商品だ。しかし、日本では取引の多くを個人投資家が占めるなど、いびつな構造を脱しきれず、金やゴムなど一部を除いてじり貧が続いている。
特に2004年の勧誘規制強化後は、取引量を示す「出来高(単位は枚)」は減少の一途をたどった。ピークの2003年の1億5407万枚から2011年には3451万枚へ4分の1以下に減少した。このうち東穀取と関西商品取引所が扱う農産物はピークの2004年の3352万枚から2011年の284万枚へ10分の1以下に激減してしまった。
こんな状態で従来同様の経営が続けられるはずもない。東穀取は2011年3月期まで2期連続経常赤字で、2012年3月期も上半期は2億円の経常赤字だ。
取引のテコ入れを狙う起死回生策として昨年8月、東穀取と関西商取はコメ先物を試験上場した。しかし、これも期待外れとなってしまう。値段の決定権を奪われることを懸念するJAが参加を見送ったことなどから取引は低調で、1日の目標出来高5000枚に対し、東穀取、関西商取とも現実は500枚程度と10分の1にとどまる。
日本人にとってコメは主食で欠かせないものだが、金融商品としては世界的にはマイナーというか、ほぼ日本でしか取引されていない局地的な商品だ。JAのような「本業」の業者にどんどん参加してもらわなければ、取引に厚みが生まれようはずもなく、取引が低調な市場に個人投資家も手を出しにくい。
「現実的な案」で早期結論へ
コメ先物の不発は、不動産の賃貸収入が収入の大半を占める関西商取には相対的に打撃は小さいが、東穀取のショックは計り知れない。赤字を垂れ流し、資産を食いつぶす体質からの脱却のめどが立たなくなってしまったからだ。
東穀取は東証の少し北に位置した伝統ある本社の土地をマンションデベロッパーに売り払い、昨年賃貸ビルに移転。もはや資産も細っている。株主である商品先物取引会社の中には「資産のあるうちに解散を」との声まで出始めた。
このため東穀取は2月6日に渡辺社長の私的諮問機関「組織・市場問題検討委員会」を発足させ、商品先物取引会社や有識者から意見聴取を始めた。渡辺社長は「いつまでも議論しているわけにはいかない」と早期の結論を目指す方針だ。
一方、政府は金融市場の監督官庁が金融庁、農林水産省、経済産業省に分かれる現状を原則として金融庁に一元化し「総合取引所」を実現可能にする法案を今国会に提出する。これを受けて政府内では、例外的にコメについて農水省の監督権限を維持して関西商取に一本化し、その他の東穀取の取引は東証、大証が2013年に統合してできる「日本取引所グループ」に移して東穀取を解散する案が検討されており、商品先物業界でも「それが最も現実的な案」との見方が多い。