「一票の格差」是正が与野党の物別れで期限までに終わらず、結果的に違法状態になっている。衆院議員定数の削減も、「80減」を盛り込んだ「大綱」が閣議決定されたものの混迷状態だ。
各党が「党利」を優先した結果、違法状態を招いた形で、橋下徹・大阪市長が批判している「決められない政治」が露呈した形だ。「橋下市長にエールを送っているようなものだ」と嘆く自民党有力者も出ている。
格差是正進まず「違法状態」
最高裁が「(最大2.3倍は)違憲状態」と指摘した「一票の格差」の解決は、法律で定期的に定められた衆院小選挙区の新区割り決定の前提だった。「格差」問題の未解決を引きずる形で、「新区割りの勧告」が行えず、2012年2月26日からは、「違法状態」になっている。
「格差」問題が前に進まなかった要因として、民主党が、元々は別の問題だった「衆院議員の定数(比例)80削減」と「選挙制度抜本改革」も加えた3点セットで同時決着を図ろうと「欲をかいた」ことが指摘されている。
消費税増税を是非とも実現したい野田政権が、増税の前提とうたった議員削減を達成するため、法的に解決する必要がある「格差」問題と結びつけ、一気に片をつけようとした、というわけだ。
勿論、「比例80減」には、比例を重視する中小党である公明党が反発するのは目に見えていたが、公明党が望む形の「選挙制度抜本改革」をちらつかせれば、話に乗ってきて、あわよくば消費増税への賛成も公明から得られるのでは、との期待があったようだ。
しかし結果は失敗だった。
「格差問題」では、民主党が自民党案に歩み寄る形で、5県で小選挙区をひとつずつ減らす「0増5減」で一致し、自民は「衆院定数削減」などとは切り離して話を進めるよう主張した。しかし、民主は「3点一挙突破」にこだわった。
ところが、民主が示した「選挙制度抜本改革」に公明は強い不満を表明し、かえって「比例80減」への反対も強めてしまった。共産党なども「消費税増税のための提案だ」として反発した。
是正しないのは「民主党が解散したくないからだ」
違法状態は、民主党が3点セットにこだわらなければ避けられた可能性がある。読売新聞の社説(2月24日付)は「(0増5減案で一致した民主、自民)両党だけでも実現できるのに手をこまねいているのは怠慢だ」と批判していた。
「違法状態」入りが確実視された2月23日、与野党幹部は会見で責任をなすりあった。民主党の輿石東幹事長は、「与野党共通の責任」と野党にも責任があるとの考えを示した。一方、自民党の谷垣禎一総裁は、「(衆院80減の)おかしなことをして先に進まなくしたのは与党だ」と批判した。
こうした状況に自民党の町村信孝・元官房長官は2月23日、「誰が見ても今の日本の政党はダメだとなる。橋下市長にエールを送っているような姿だ」と派閥例会で与野党執行部の対応を批判した。
野田政権は2月17日、「衆院定数80削減」や消費税増税などを盛り込んだ大綱を閣議決定した。野党は、定数削減への言及について「内閣の越権だ」と大反発しており、野田佳彦首相は23日、衆院予算委で、「80削減明記」について、「遺憾に存じ、深くおわび申し上げる」と陳謝する事態に追い込まれた。今後、定数削減法案が国会に提出されたとして、成立するかどうかは未知数で、提出を危ぶむ声すらある。
違法状態入りについて、自民党の石原伸晃幹事長は2月26日、「民主党が衆院を解散したくないからだ」と指摘した。適法状態に戻すまで選挙はできまい、というわけだ。一方、藤村修官房長官は、「まったく関係ない」と、違法状態であっても、首相の解散権は行使できる、との考えを示している。