飢餓の歴史が生んだ民俗芸能 復興・再生のパワーに【岩手・花巻】

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「三陸の未来に光あれ」と書かれたポスタ-を紹介する茶谷さん=花巻市東和町の「とうわボランティアの家」(旧成島小学校)で
「三陸の未来に光あれ」と書かれたポスタ-を紹介する茶谷さん
=花巻市東和町の「とうわボランティアの家」(旧成島小学校)で

(ゆいっこ花巻;増子義久)

   「鎮魂(ちんこん)には死者の魂を鎮めると同時に魂を奮い起こすという意味もある。東日本大震災の復興・再生は民俗芸能が持つパワーを抜きにして考えることはできない」―。南部三閉伊一揆などの百姓一揆や民俗芸能研究の第1人者、茶谷十六さん(前たざわ湖芸術村「民族芸術研究所」所長)は23日、花巻市内で開かれた「東アジアの未来を東北から考える」というテーマの講演会でこう語った。


   茶谷さんは冒頭「2万人に近い犠牲者を出し、壊滅的な被害を受けた三陸沿岸でわずか数カ月後には鹿踊りや虎舞などの民俗芸能を復活させようという動きが出てきた。なぜなのか」と切り出し、「全国一多い百姓一揆と民俗芸能の宝庫と言われるこの地の風土性が密接に関係している」と指摘した。


   約160年前の嘉永6(1853)年、1万6千人もの一揆集団が今回の沿岸被災地を駆け下って、伊達領に越訴(おっそ)した。近世史上最大規模と言われる、この「南部三閉伊一揆」など岩手県は全国でも群を抜いた一揆多発地域だった。一方、多彩な民俗芸能もこの地域に重なっている。茶谷さんはこの点に注目し、「東北・岩手の地は地震や津波などの自然災害だけでなく、凶作や冷害などによって数えきれない命が奪われた"飢餓地帯"でもあった。この人たちの鎮魂と供養のために豊かな民俗芸能が誕生した」とし、さらに「この芸能に特徴的なのはその重層的な意味合いである」と次のように付け加えた。


   「この一帯の芸能には『眠るな、起きろ。起きて、無念の気持ちを残された私たちに伝えてくれ』といった激しさがある。つまり、単に魂を鎮めるというよりは逆に死者の魂を奮い起こすという『魂(たま)ふるい』がその原点だともいえる。その意味で震災1周年は2万人もの死者・行方不明者の魂をいかにして奮い起こし、その思いを未来の再生にどうつなげるかが問われているともいえる」


   茶谷さんは席上、いわてゆいっこ花巻が企画している「東日本大震災 追悼3・11…三陸の未来に光あれ」―についても言及し、「未曽有の悲劇を光に変えたいという思いが伝わってくる」と話した。また、この日は沿岸被災地の支援にやってきた 筑紫女学園大学(福岡県太宰府市)や長崎大学の学生のほか、韓国人やベトナム人のボランティアなど50人以上が身を乗り出して講演に聞き入った。その一人、筑紫女学園大学2年の木内陽子さん(20)は感想をこう述べた。


   「例えば、瓦礫(がれき)処理などのボランテイアをしただけで帰ってしまうのではなく、一度立ち止まって東北・岩手の歴史や風土に耳を傾けることの大切さを教えられた。日本で最大の一揆が瓦礫の下に埋まっているなんて、初めて知った。今回の体験はこれからの自分の人生の原点になるような気がするし、そうしなければならないと思う」

身じろぎもしないで講演に聞き入る学生たち=花巻市東和町の「とうわボランティアの家」で
身じろぎもしないで講演に聞き入る学生たち
=花巻市東和町の「とうわボランティアの家」で


ゆいっこ
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