「言うだけ番長」と産経新聞に報じられた前原誠司・民主党政調会長が、「有言実行」した。産経新聞記者に取材拒否を通告し、実際に記者会見から同紙記者を排除したのだ。
産経記事によると、前原氏の怒りの原因は、同紙による複数回の「言うだけ番長」報道だ。前原氏は「ペンの暴力」と批判しているが、読売新聞や週刊新潮などほかのメディアにも登場する表現だ。
「人をおとしめるために悪口を書き続けるのはペンの暴力」
前原氏は2012年2月23日の会見で、産経記者の出席を拒否した。産経報道について、
「事実に反する」「人をおとしめるために悪口を書き続けるのはペンの暴力」「受容の範囲を超えた」
と述べたが、どの記事を指しているのかは、「拡散されてしまう」ことを理由に具体的には指摘しなかった。朝日新聞報道などによると、報道各社は「排除」に抗議した。
当の産経新聞は、前原氏が問題視してきたのは「言うだけ番長」という表現だと報じた。2011年9月15日付から計16本の記事でこの表現を使った。
産経の16本の記事を読んでみると、「最新」は12年2月22日付で、前原氏会見の前日だ。全体的に「~と揶揄されている」といった使われ方が多い。中には、自民党幹部が「前原氏には『言うだけ番長』の汚名が消えないぞ」と「言い放った」とする記事もあった。
具体的事例に挙がっているのは、前原氏が最後まで抵抗を続けながらも結局建設再開が決まった八ツ場ダム問題が代表的だ。再開決定を受け、「もはや『言うだけ番長』と揶揄されても反論できまい」(11年12月24日付)と書いている。
ほかに、復興財源をめぐり、「税外収入を政府案より2兆円積み増し」発言などが指摘されている。積み増しは、「将来の計画」にとどまっている。
総理を目指す政治家としては、度量が狭過ぎる印象
ほかのメディアも「言うだけ番長」と使っているのか。
例えば、読売新聞は「『言うだけ番長』という不名誉なあだ名もある」(11年10月30日付朝刊)など、少なくとも2回使っている。
ほかに、西日本新聞や沖縄タイムスといった地方紙のほか、週刊新潮やサンデー毎日といった週刊誌、夕刊紙でも見受けられる。産経新聞より先に使った例は、分かった範囲では2011年8月のサンケイスポーツ記事が見つかった。使った回数としては、産経新聞が突出している。
前原氏は本当に永田町で「言うだけ番長」と揶揄されているのか。政治評論家の浅川博忠氏にきいてみた。
産経報道が出てくる前は、民主党内の前原評としては、「口が軽い」「フライングが多い」といったものがあった。産経報道以降、「言うだけ番長」という言い回しが、「今では野党の間でも定着しています」。
前原氏による会見拒否については、「総理を目指す政治家としては、度量が狭過ぎる印象を与えてしまった。批判も包み込む『大きさ』をみせるべきだった」と指摘した。
もっとも、前原氏にも言い分はあるようだ。2011年12月22日に日本記者クラブであった会見では、「発言が実現していない」との指摘に対し、「八ツ場ダム以外はできている」と反論していた。確かに、「武器輸出三原則の見直し」など、当初「言うだけ番長」批判を受けながらも後に一部実現した項目もある。
それに、「仲間」が増えるかもしれない。産経新聞は、野田佳彦首相に対しても「どうやら『言うだけ番長』は前原氏だけではなさそうだ」とも書いていた。「言うだけ総理」が広く使われる日が来る可能性もある。