大阪市が職員のメールの内容について事前通告なく調査を行ったことをめぐり、波紋が広がっている。
職員からは「やり過ぎ」「プライバシーの侵害」などと反発の声があがっているが、実は「民間では普通に行われていること」との見方もある。
幹部職員150人分のメールを調査
調査は、外部の弁護士などでつくる調査チームが市の総務局に依頼し、サーバーに蓄積された幹部職員150人分のメールのデータの提供を受けた。対象の150人に対して無断で行われたことから、厚生労働省の指針に反するとの指摘も出ている。
指針は、労働省(当時)が00年に発表した「労働者の個人情報の保護に関する行動指針」。それによると、労働者をコンピューターなどで監視する際は、(1)法令に定めがある場合(2)犯罪その他の重要な不正行為があるとするに足りる相当の理由があると認められる場合、を除いて
「労働者に対し、実施理由、実施時間帯、収集される情報内容等を事前に通知するとともに、個人情報の保護に関する権利を侵害しないように配慮するものとする」
とある。
この点について、橋下氏は
「そりゃ、厚労省が間違ってる」
「法律の範囲内で、実効性のある調査をする。今回、メールの問題は消去しようと思えば簡単に消去できる訳ですから、こんなん事前通知なんかやってたら、簡単に消去しますよ。そんな生ぬるい調査では、全く実態解明なんかできませんから」
と反論した。また、調査チームの野村修也弁護士は、ツイッターで、
「市の管理職職員がメールを利用して職務専念義務に違反する行為を行ったとの内部告発を受けて、違法行為が相当程度疑われることから、同様の行為を行いうる地位にある管理職職員に限って実施したものです」
と、調査の根拠として「違法行為が相当程度疑われること」を挙げ、厚労省の指針には必ずしも抵触しないとの見方を示した。また、橋下氏が調査の背景として組合活動との関連を指摘したことについては、「全くの誤解」と主張。橋下氏と説明が食い違っているのは
「市長の介入によって調査の独立性が歪められないように、市長にも事前に具体的な調査対象者をお伝えしていなかった」ためだと釈明した。
大企業の75%が「電子メールの送信・着信履歴の保存」行う
もっとも、民間企業では、「メールの内容を監視」することは、一般的に行われていることでもある。やや古い調査だが、労務行政研究所の06年の調査では、従業員数1000人以上の大企業の75%が、「電子メールの送信・着信履歴の保存」を行っている。
また、02年2月の東京地裁判決でも、会社側がメールサーバーを調査することは「社会的に許容しうる」とされた。この裁判では、誹謗中傷メールの発信元を調べるため、会社が全社員のメールを調査したところ、ある社員が大量の私用メールを送信していたことが発覚。これを理由に会社側は社員に対して懲戒処分を下したが、社員はプライバシーの侵害と名誉毀損で会社側に損害賠償を求めていた。判決では、大量の私用メールは懲戒の理由になるなどとして、原告側の主張をすべて退けている。
さらに、総務省のウェブサイトによると、組織内のネットワーク(イントラネット)では、電気通信事業法上の「通信の秘密」の保護は及ばないとみなされている。
ただし、企業側は、事前にこれらの運用方針を定めて情報セキュリティーポリシーを策定し、厚労省の指針にあるように、従業員に周知することが望ましいとされている。