東京電力の福島第一原発の事故で発生した風評被害に対する賠償が進むにつれて、賠償金を特別利益として業績見通しに計上する企業が出始めている。中には、賠償金の影響で、最終損益が赤字から黒字に転換するケースもある。今後、補償の対象地域は広がる見通しで、こうしたケースは増えそうだ。
2億4000万円の赤字のはずが
東京電力の広瀬直己常務が2012年2月9日に文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会に対して報告した内容によると、2月7日時点で損害賠償の請求があったのは個人と法人合わせて約8万6500件で、そのうち賠償に至ったのが約4万5900件。賠償金の支払いは11年10月に始まっており、仮払いを含めると総額約3705億円にのぼる。
政府が11年8月にまとめた中間指針によると、賠償の対象には、住民の避難費用や、観光業などに与えた風評被害も含まれる。対象地域は、当初は福島、茨城、栃木、群馬の4件だったが、後に千葉県の16市町村が追加された。
これを受けて、東電から受け取った賠償金の額を特別利益として計上するケースが相次いでいる。
例えばジャスダック上場の鴨川グランドホテルは12年2月21日、12年3月期の最終損益(単独ベース)の見通しを、2億4000万円の赤字から6500万円の黒字に上方修正すると発表した。同日付で、東電から支払われる賠償額が3億500万円に確定しため、その分を特別利益として計上した。なお、震災前の期間が大半を占める10年3月期の最終損益は2億1900万円の赤字。今回の上方修正で黒字転換を果たした形だ。なお、今回確定した賠償額は11年3月11日~11月30日を対象としたもので、今後も賠償が行われる。