38歳、5年契約最終年――。メジャー「生き残り」かかる正念場の年
大リーグの厳しさをイチローはだれよりも知っているだろう。あの名門ヤンキースで主力を打った松井秀喜がいまだに行き場所が決まらない。福留孝介はやっと前年の10分の1ほどの年俸でインディアンスと1年契約を済ませた。西武の看板、中島裕之はヤンキースから入札されながら控え扱いで古巣に戻った。
イチローは、明日は我が身、を察したことだろう。今シーズンは5年契約の最終年で、昨年の成績を下回れば放り出される可能性がある。それどころかシーズン中にファーム行き、トレードだってありうる。日本のようにスター選手だから、チーム功労者だから、などの温情はない。すべてビジネスライクだ。
日本は「前年の成績を重要視」して契約するが、大リーグは前年を参考に「今年どのくらい働けるか」を判断する。だから年齢を重ねると、どんな大選手でも1年契約であちこちの球団を渡り歩くのである。
そういう意味でイチローは、自らが「打者としての曲がり角に来た」ことを認識し、来シーズン以降に備えたといっていい。どんな大打者も晩年はもがき苦しんで打開策を探り、体力の衰えに自分が勝てないことを悟ってバットを置くのである。
「打球が野手の正面を突いて抜けない」と言ったのはミスタープロ野球こと長嶋茂雄。世界のホームラン王で一本足打法の王貞治は「打っていた投手に抑えられるようになった」と言って引退を決意した。
38歳のイチロー。「何かをやるときは不退転の決意でやる。自分のセンスを信じたい」と言葉は強い。今シーズンは「生き残り」がかかる、重要な年である。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)