真っ黒なススと騒音で「環境に悪い」というイメージがあったディーゼル車の環境性能が大きく改善されている。2012年2月17日に開幕した札幌モーターショーでは、「クリーンディーゼル」エンジンを搭載したマツダ「CX‐5」がお目見えし、注目を浴びた。
ディーゼル車は、欧州の「環境先進国」ではむしろ「環境によい車」とされている。次世代のガソリン車やディーゼル車の環境性能について調査する「次世代ガソリン・ディーゼル車研究会」はクリーンディーゼル車を「白いディーゼル」と呼んでいるほどだ。
ロングドライブに適したディーゼル車
マツダの「CX‐5」は、独自の技術革新「SKYACTIV TECHNOLOGY」に基づいて開発した新型ディーゼルエンジンを搭載したSUV(スポーツ用多目的車)。札幌モーターショー前日の2月16日に発売したばかりだ。
「SKYACTIV‐D2.2」エンジンは、NOx(窒素酸化物)の後処理システムを使用せずに欧州の厳しい排出ガス規制に適合した。2200ccの排気量でありながら、4000ccクラスのガソリンエンジン並みの走行性能を実現している。
燃費性能は新基準のJC08モードで、軽油1リットルあたり18.6キロメートルを達成した。
ディーゼル車の新車登録に占めるシェアは、日本ではわずか0.1%しかない(2008年)。しかし、ドイツでは44.1%、イタリアが50.8%、フランスではじつに77.3%をディーゼル車が占めている。
日本の排出ガス規制は、最近でこそ二酸化炭素(CO2)がうるさくいわれているが、それ以前はNOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)に対する目が厳しかった。2003年以降には東京都がディーゼル車規制を強化したこともあり、「ディーゼル車=環境に悪い」というイメージが浸透してしまったわけだ。
しかし、環境問題でCO2削減が厳しく求められる欧州ではガソリン車に比べてCO2排出量の少ないディーゼル車が人気を呼んだ。
欧州事情に詳しいモータージャーナリストの川端由美さんは、「欧州では、たとえばフランクフルトからパリまでの約500キロ、あるいはミュンヘンに住む人がイタリアにバカンスに行くのに、アルプスを越えるのもクルマ。彼らは飛行機ではなくクルマで移動することが多いのです」と話す。
クリーンディーゼル車は燃費の良さや長距離運転に適している点からロングドライブ性能に長けている。
マツダが札幌モーターショーに「CX‐5」を投入した理由はそこにある。「高速道路の巡航では1回の給油で1200キロを、ストレスなく、かつパワフルに走る車は他にありません。長距離を運転する機会が多い北海道でこそディーゼル車の特性が生きると思います」と、山内孝社長は胸を張る。
また、エンジンを開発した人見光夫パワートレイン開発本部長も、「おそらく、同じSUVタイプのガソリン車と比べて燃料コストが3分の1程度になる」と話す。
「CX‐5」はすでに北海道内で多くの受注が入っている。山内社長は「ディーゼル車を待っていた人がいたんです。このマーケットをさらに切り拓いていきたい」とも語った。
「黒い」「うるさい」のイメージを払拭
ディーゼルエンジンは1997年以降に普及した新しい燃料噴射技術「コモンレール」システムによって、排出ガスのクリーン化を実現。最近は「クリーンディーゼル」として注目され、日産自動車の「エクストレイル 20GT」(2008年)や三菱自動車の「パジェロGR」(2010年)が登場している。
三菱自動車の「パジェロGR」はガソリン車も販売しているが、「燃費のよさもあって、ユーザーの5割強がディーゼル車を選んでいる」(三菱自動車)という。
どうやら国内でも、ディーゼル車が選択肢の一つになってきたようだ。
次世代ガソリン・ディーゼル車研究会による排出ガスを白いタオルに吹き付ける実験では、既存のディーゼル車のタオルが真っ黒になったのに対して、次世代ディーゼル車のタオルは白いままだった。
騒音実験では、既存のディーゼル車がエンジンの回転数を上げると騒音レベルも上がるのに対して、次世代ディーゼル車は回転数を上げても、また測定する位置を問わず、ガソリン車と変わらない低レベルにあることがわかった。
実験に携わった九州大学大学院の村瀬英一教授は「ディーゼル車の環境性能は向上が著しく、静粛性もガソリン車と遜色ない。低燃費ガソリン車に加え、次世代ディーゼルも『第3のエコカー』としてカテゴリーが拡大している」と評価する。