日銀が「中長期的な物価安定のめど」を当面1%とすると発表した。これを受け、「事実上の『インフレ目標』を導入」(朝日新聞など)との報道も出る一方、「腰が引けた政策で、インフレ目標になっていない」と批判する識者もいる。
「『サプライズ』市場好感」。日銀発表の翌日である2012年2月15日付の読売新聞朝刊(経済面)の見出しだ。「1%めど」に加え、資産買い入れ基金の10兆円増額などの「脱デフレ」策発表を受け、円安・株高が進んだ状況を報じている。
白川総裁「日銀の枠組みはFRBに近い」
インフレ目標政策は、英国やカナダなど20か国以上が採用している。中央銀行が物価上昇率の目標を示し、目標より上がり過ぎたり下がり過ぎたりしないよう、金融政策的な努力をするというものだ。政策の透明性を確保する狙いもある。
先進国の中では日本と米国が例外的に採用していなかった。しかし、1月末にFRB(米連邦準備制度)が2%のインフレ目標を導入し、日本の国会で「米国のようにできないのか」と日銀への突き上げが始まっていた。
FRBが導入したインフレ目標は、達成できなかった場合の報告義務などはなく、「目標(ゴール)」と表現されている。一方、英国のイングランド銀行などでは、達成期間が示され、理由分析などの報告義務がある。「目標(ターゲット)」という言葉を使っている。
日銀の白川方明総裁は2月14日の会見で、「日銀の枠組みはFRBに近い」と説明した。
日銀は今回、物価上昇率について、従来使っていた「理解」という表現から「めど」へと、いわば「格上げ」した形で政策委員会としての判断を示した。「めど」が達成できなかった場合の報告義務はなく、達成時期も示していない。
あくまで「目標」との表現は避ける一方、「めど」を英語ではFRBと同じ「ゴール」と訳している。達成期間や報告義務がない点で、「(ターゲットではなく、ゴールとしている)FRBに近い」というわけだ。
日銀には「覚悟がない」
一方、高橋洋一・嘉悦大教授は、「FRBの政策はインフレ目標だが、日銀のはインフレ目標になっていない」と指摘する。元財務省官僚の高橋教授はかつて、現FRB議長のバーナンキ氏のインフレ目標論に関する本を、単独インタビューもつけていち早く日本に紹介している。
高橋教授によると、「インフレ目標」と呼べるかどうかの今回のポイントは、「報告義務の有無」ではなく、目標達成ができなかった場合に「責任を取るという覚悟を示しているかどうか」にあるという。
FRBの「ゴール(目標)」では、報告義務はないものの、「物価上昇率を金融政策でコントロールできる」としており、「目標達成に失敗すれば、議会などで説明するのは当たり前だという姿勢、覚悟を示している」というわけだ。
一方、日銀は「逃げをうっている」。日銀は、金融緩和だけで物価を上昇させることはできず、政府の成長戦略や企業努力も必要との考えを示しているからだ。
高橋教授は「日銀の腰が引けた覚悟のなさは、見透かされてしまう」として、「これでは、『事実上のインフレ目標』にもならない」と指摘した。もっとも、「何もしないよりは良いが…」とも話した。
2月15日付の全国紙朝刊各紙に載ったエコノミストらの見解の中にも「FRBは能動的、日銀は受動的」といった違いを指摘する声があった。
安住淳財務相は2月14日、「(日銀が)実質的にインフレターゲット(目標)を設定したと受け止めている」と歓迎したが、民主党内からは早くも「『めど』ではあいまいだ」などと不満の声が上がり始めている。