河村たかし名古屋市長と大村秀章愛知県知事の関係に秋風が吹き始めている。大村知事が石原慎太郎東京都知事や橋下徹大阪市長と次期衆院選の選挙協力を検討する「首長連合」の動きが表面化したのがきっかけだ。大村知事は一連の動きを河村市長に連絡しておらず、「減税」を旗印に大村知事との共闘関係で国政にも橋頭堡を築くことを目指してきた河村市長が蚊帳の外に置かれた形になった。
「ホワット・ハプンド(何が起きたの?)ですわ、これ」。石原知事が橋下市長、大村知事との連携の可能性を明言した2012年1月下旬、河村市長は記者会見の場で戸惑いを隠さなかった。
大村知事が県民税減税の実施見送りを突然発表
大村知事は「大都市制度改革」をテーマに 政治塾「東海大志塾」を4月に開設し、橋下市長が代表の大阪維新の会が設立する政治塾と連携することも発表。これについても河村市長に事前の相談はなかったという。
2人のよそよそしい関係を象徴したのが、2月1日、愛知県庁であった共同記者会見だった。主題は愛知県と名古屋市が共催する特別展だったが、記者団の質問は次期衆院選に向けた両氏の連携に集中。 終了後、記者団から二人で握手するよう求められた河村市長は「まあ、ええわ」と言って席を立ってしまった。
河村市長と大村知事の「村・村コンビ」は、1年前にあった「愛知トリプル投票」で「市民税・県民税10%減税」「中京都構想」を掲げて共闘し、圧勝した。選挙では圧倒的な人気を誇る河村市 長の知名度に大村知事が「便乗」した構図で、河村市長にはもともと自分が「兄貴分」との意識がある。
しかし大村知事は2011年11月、来年度の県民税減税の実施見送りを突然発表した。「県は東日本大震災で税収不足」と釈明したが、河村市長は猛反発し「必死に行革をやり、減税をやってほしい」と批判。大村知事が 「行革は血のにじむ思いでやっている」と気色ばみ、2人の論争に発展した。自民のベテラン県議は「その時から大村さんの頭には、減税に否定的な橋下市長との連携の考えがあったのではないか」と推測する。
橋下市長「一緒になれない」発言がショック
河村市長は2月3日夕、退庁した足で新幹線に飛び乗り、大阪へ向かった。橋下市長との会談を自ら申し入れたのだ。橋下市長は1月末、河村市長との連携の可能性を問われ「減税の旗を降ろすか、何かの調整がないと一緒になれない」と断言している。
河村市長にとっては11年秋の大阪市長選で応援演説にまでかけつけた橋下市長の批判が自らに向けられたショックは大きかった。河村市長は「減税か増税かは社会全体のシステムをつくってから考える。(連携は)5月までに結論を出す」と説明した。協力の可能性を残すため、「名古屋では住民税10%、国政では即座に消費税1%引き下げる」と主張してきた自説を当面、封印する姿勢を見せたのだ。
大村知事は会見などで「河村さんとの協力関係は変わらない」と繰り返し発言しており、その後も河村市長に電話で「あなたは4番打者。選挙になれば、力を発揮する場面が必ずくるから誤解しないでほしい」と理解を求めているという。
河村市長は大村知事の「東海大志塾」に対抗して自らが主催する政治塾を開設することを表明した。次期衆院選では名古屋市内を中心に自ら代表を務める「減税日本」から独自候補を擁立する考えで、政治塾は事実上、候補発掘の場となる。やはり衆院選への候補擁立を目指す大村知事との候補者調整が、2人の関係を測る決定的なリトマス紙になりそうだ。