会議中に、ノートパソコンやタブレット端末、スマートフォンを眺めていたり、キーボードをパタパタと叩いたりしていて、議論の中身に集中できない――。
会社内でこう感じたことがある人は、案外多いのではないだろうか。
こうしたIT依存症ともいえる状態に陥った会社を立て直す手立てとして、「トップレス・ミーティング」がいま注目されている。
会議に持ち込めるのは紙とペンだけ
便利なはずのパソコンやスマートフォンなどによる「IT漬け」が会社をダメにする、とドリーム・アーツの山本孝昭社長は朝日新聞(2012年2月8日付)のインタビューで警鐘を鳴らしている。
解決策として「IT断食」を提唱し、自らの会社でそれを実施。具体策として、山本社長は2011年秋から、会議には「トップレス」で臨んでいるという。
「トップレス」のトップは「ラップトップ」の意味。同社では、会議に持ち込めるのは「紙とペン」だけだ。
トップレス・ミーティングとは、会議の参加者の集中力を高めて、より深く議論することを狙いに、デジタル機器の持ち込みを禁止した会議。米シリコンバレーが発祥地といわれ、2008年以降に欧米の会社で導入。最近では大学でも教室へのパソコンの持ち込みを禁止しているところもある。
会議の出席者がパソコンやスマートフォンを持ち込んで、ペーパーレスにして打ち合わせるケースは増えている。しかし、それがよくないというのだ。
「禁止ではないが、電源は基本的に切らせます」
「会議は顔をあわせ、意見や思いをぶつけあったり、交換したりしながらアイデアを見つけるとか、行動への決定を導くとか、そのためにあります」(山本社長)
専門コンサルタントの中にも「IT断食」に理解を示す人は多い。
「すごい会議」認定マネージメントコーチで、ピグマの太田智文社長は、会議の仕方をコンサルティングするときも、パソコンなどの持ち込みは「禁止ではないが、電源は基本的に切らせます」という。
「身のある」会議にするためには、デジタル機器の持ち込みは「避けたほうがよい」と指摘。「数字の確認などでパソコンが必要な場合には、その前提で準備してもらいます」と話している。
日本ではあまりなじみがない「トップレス・ミーティング」だが、ジワジワ増えているようでもある。
CCメールは「身内の迷惑」
山本社長は、「業務の連絡手段としてのメールはもう限界が来ている」とし、さらには社内のCCメールを「身内の迷惑」とまでいう。
業務上、「聞いてなかった」「知らなかった」といわれないためにCCメールを送るケースは少なくないが、1日に何百通ものメールはさすがに読めない。そのため、山本社長はCCメールも禁止したという。
本来、業務効率を上げるはずのITだが、プレゼンテーションの資料づくりに何時間もかかることもある。念のため、あるいは見栄えをよくするためのグラフや矢印、グラデーションにアニメーションと、工夫を凝らせばいくらでもできるだけに、気がついたら丸1日かかったということもありがちだ。思いあたるフシがある人もいるだろう。