2012年1月25日、FRB(米連邦準備制度)が2%のインフレ目標を導入してから、日銀が騒がしくなっている。来週2月13日(月)、14日(火)に日銀は金融政策決定会合を開くが、そこで金融緩和措置がとられるかもしれないという噂が市場を駆け巡っている。
一般の人の中には、インフレ目標と聞くと、インフレなんて目標にするのはけしからんとかいう人もいる。年間で1ケタ程度のインフレ率なら、失業するわけでなく生活にたいした問題はないが、デフレでは失業率が高くなって新卒者や非正規雇用者は働けなくなる。
「FRBもやっていないから」と否定的だった
こうした経済の話と密接に関係しているが、ほとんどの国の中央銀行は物価の安定を主な仕事としている。物価の安定といっても、できるだけ数量的にわかりやすくすべきだ。目標を数字でわかりやすくすべきなのは、民間企業でも同じである。
世界の中央銀行は、インフレ率1~3%を目標にしているところが多い。そうした目標数字を出していなかった先進国は、日銀とFRBだけだった。FRBはちょっと事情があって、FRBは物価安定と雇用の最大化というふたつの責務(DUAL MANDATE)を持っていて、インフレ目標を出すと、雇用はどうなるのかと工夫が必要なのだ。
でも、今回、バーナンキ議長は、米国議会の根回しをうまくこなして、雇用も重視した上でやるということで、インフレ目標の導入にこぎ着けた。インフレ目標はバーナンキのライフワークともいうべきもので、彼は世界的権威でもある。
そこで困ったのが日銀だ。実は日銀はインフレ目標について否定的で、やってこなかったのは「FRBもやっていないから」と安直な理由で説明してきた。そうなると今回、FRBがやるなら、日銀もやれという話が当然出てくる。
マスコミが「騙された」、「理解」と「目標」の違い
国会で白川総裁は、実は日銀もFRBと同じようなことをやっていると言い訳している。日銀は、物価の安定を0~2%と「理解」しているという。マスコミはこれで騙(だま)されている。実は、「理解」と「目標」はまったく違う。
ちなみに2006年3月9日の福井俊彦総裁(当時)記者会見で、はっきり説明されている。記者の「各国で既に採用されているインフレーション・ターゲティング、インフレ参照値とは別か」という質問に対して、福井総裁は「概念的に大きく異なるものである」と明言している。
続けて「ターゲティングの場合はもちろんのこと、ECB(欧州中央銀行)のようなインフレの定義、あるいは望ましいインフレの定義のように、定義とか参照値とか言う場合には、政策委員会の意見、討議を経て1つの数字、ないしは1つの物価上昇率のレンジ、1つのことを決めるということであるが、そういったことはしていない」と答えている。
福井前総裁のほうが正しく、白川総裁は誤魔化している。目標というのは達成しないと不味い。しかし、「理解」なら達成しなくてもいい。ここに日銀がインフレ目標といえない理由がある。日銀は実績のない落第生なのだ。
1998年の新日銀法施行以降、日本で前年同月比のインフレ率が0~2%に収まっていたのはわずか1割6分。一方、FRBが1~3%に収めたのは実に7割以上だ。100点満点で20点も取れない落第生は「目標」とは言えなくて、70点超の優等生は目標と言える。やはり落第生は優等生を見習うべきだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。