インフルエンザでこんなに騒がれる監督は珍しい。DeNAの中畑清監督がキャンプ3日目の2月3日から休み、7日に復帰。話題が先細り状態にあって、貴重な「プロ野球コマタレ(コマーシャルタレント)」といったところ。開幕まで露出度は日増しに高くなるだろう。
「グラウンドの空気を吸うと、チームの一員という気持ちになるね」
球場に姿を見せると、持ち前の明るさを発揮した。円陣を組み一本締めで選手を送り出すと、グラウンドは一気に活気づいた。内野練習で一塁を守り、練習の手伝い。取り損ないがたびたび。それでも「もう少しやれば野球選手になるよ」とうれしそうだった。
チームは4シーズン連続の最下位。だれもが「前途多難」と指摘するが、中畑監督は悲壮感を見せない。戦力不足の悩みを胸にしまい、それどころか派手な言動でマスコミの関心を一手に引き受けている。なにしろキャンプ2日間で300人近い報道陣が取材に来た。球団が「こんなことは初めて」というほどの盛況ぶりだ。
ロッテ監督就任時の金田正一を思わせる人気ぶり
「宴会部長がプロ野球の監督になった!」
昨年、中畑監督が誕生したとき、球界スズメの間からこんな声が上がった。これは冷やかしではなく、彼の日ごろの付き合いの良さからの例えで、言い得て妙である。人懐こい性格と持ち前の明るさ、それに芸人顔負けの旺盛なサービス精神。飲み会になれば独壇場である。
今年1月の「監督就任パーティー」では、予定をはるかに超える出席者が詰め掛け、会場はごった返した。お土産が足りず、後日配送でしのいだというほどで、潜在人気の高さを見せた。
DeNAとしては「大当たり人事」だった。まともならマスコミがさして相手にしないチームである。ところが結果は巨人や阪神などの人気球団をしのぐ扱いで、これは中畑監督のキャラクターが受けているからだ。
かつて同じような監督がいた。400勝投手として知られる金田正一監督で、人気のなかったロッテの監督に就任したときである。キャンプでは毎日のようにマスコミ受けする話題を提供した。
たとえば、キャンプインを1日ずらしたこと。「同じ日じゃ巨人に話題を持っていかれるからな」。さらに、キャンプ途中で妻帯選手を一時帰郷させた。「生理休暇だよ」。ファンには「お客様は神様でございます」と丁寧に扱い、サインをすることはもちろん記念写真にも納まった。
中畑監督の雰囲気は当時の金田によく似ている。
監督としての「実力」には疑問符。1つでも順位上げられるか?
一方で、専門家は「指揮官としての能力はどうか」と厳しい目を向けているのも事実である。関係者の多くは「?」。むしろ「監督になって、大丈夫か」との見方が少なくない。
巨人OBからは「キヨシが監督と聞いて、ひっくり返りそうになったよ」と驚きの感想ばかり。アテネオリンピックでは病に倒れた長嶋茂雄監督の代行として采配を振るった実績はあるのだが、銅メダルを取っても指揮能力を評価した野球人は少なかった。
DeNAの戦力はだれがみても「最下位の有力候補」である。しかし、負ければ監督の責任を追及される。おそらく開幕すれば、采配をとやかく指摘されるだろう。キャンプとの落差を見ることになると思う。
期待するのは順位を1つでも上げることである。それで褒められる。そういう力のチームなのだ。それと重要なのは話題を呼ぶ戦いを作ること。その第一は巨人戦で勝つ、あるいは脅かすこと。それだけでメディアは飛びつく。
かなり前、弱小の国鉄スワローズが「巨人キラー」として話題を集めた。そのときのエースが前出の金田投手だった。
中畑監督の言動は沈滞気味のプロ野球にあってありがたい存在である。キャンプでの話題性を評価して「コミッショナー特別賞」をあげてもいい。
(敬称略:スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)