通常国会の論戦が始まり、野田佳彦首相は代表質問で、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革をめぐる与野党協議を呼びかけた。
野党が協議に応じる気配がなく、国民の間に増税へのアレルギーが根強い中、政府は増税分を全額、社会保障関係費に充て、低所得者対策として「給付つき税額控除」を導入し、理解を求める考えだ。
安いコストで幅広く再配分
消費税は、所得に関わらず一律に同一税率を課す。このため、食料など生活必需品への支出が収入に占める比率が高い低所得者ほど負担感が重い「逆進性」がある。そこで、政府・民主党は、低所得者に対し、消費増税による負担増分の一部を現金で還付する「給付つき税額控除」の導入を打ち出した。
具体的仕組みは、税額控除と手当の給付を組み合わせる。世帯の人数や子供の数、勤労の有無などに応じて、「支払うはずの税額」を算出、それより納税額が多い場合は税額控除、少ない場合は給付を受ける。通常の所得税の税額控除や所得控除と違い、課税所得の最低限に達しない低所得者も給付の形で恩恵を受けられる。英国などがこうした制度を導入しているほか、カナダは年収が一定以下の世帯に、年間一律約6万円を支給している。
消費税率引き上げには、こうした低所得者対策は避けて通れない。東京財団は、生活保護が真に困窮した世帯に限定して支給するのに対し、給付付き税額控除は生活保護のようなケース・ワーカーが必要なく、安いコストで国民全体に幅広く再分配が可能としている(2011年11月19日資料)。
これに対し、大武健一郎・元国税庁長官は「既に生活保護もある」と給付付き税額控除に反対。「政策的に重要なものは軽減税率を適用すべきだ」として、食料品のほか、「文字文化を守るため教科書や新聞」も対象にすべきだと語る(毎日新聞2012年1月17日朝刊)など、税の専門家の中でも議論は分かれる。
「共通背番号」の実施が必要
また、実際に実施する上で、大前提になるのが税と社会保障の「共通番号制度」、いわゆる納税者番号制度。正確な所得の把握が不可欠だからで、例えば金融資産の利子・配当など不労所得で暮らす資産家が「低所得者」になってはいけないし、所得がほぼガラス張りのサラリーマンに比べ、個人事業者や農業者などは所得把握が不十分とされ、そうした「不公平感」をなくすために、共通番号で全ての収入をもれなく把握するというのだ。
ただ、番号制度にはプライバシーの保護の徹底が不可欠で、個人情報保護のための第三者委員会設置を含め、膨大なシステムの整備などが必要。運用開始は早くて2015年1月とされる。
つまり、「給付付き税額控除」は消費税率を8%に上げる2014年4月には間に合わず、2015年10月の10%への引き上げの時に実施されるということだ。このため、政府・民主党では8%に引き上げる時には、一定の所得水準以下の高齢者や非正規労働者、障害者らを対象に一律に手当てを支給する案が浮上している。
同手当は年1万円程度を軸に調整されるというが、給付付き税額控除をどの程度の額にするのかは難しい問題。財務省の試算では、平均所得(年553万円)以下の世帯に対し、食料品にかかる消費増税分を還付しようとすれば必要額は年1兆円、衣料なども含めると1.5兆円の財源が必要になるという。
「制度設計をよほど慎重にしないと単なるばらまきになりかねない」(野田毅・自民党税制調査会長=毎日新聞2012年1月20日朝刊)との懸念があるように、実施するにしても規模をめぐり、厳しい議論が続く。