東京大学の秋入学をめぐり、財界トップの発言が関係者の注目を集めた。日本商工会議所の岡村正会頭は2012年1月19日の会見で、「秋入学は東大だけで進む話ではない。東大だけでやると少し問題があろうかと思いますけれども、これから他の大学にも声をかけてやっていきたいということでした」などと述べ、東大が秋入学を他大学にも呼びかけることを示唆した。
一部の大学関係者やマスコミは「これはインサイダー情報では」と驚いたという。
懇談会の中間報告を知りうる立場
東大の秋入学検討はマスコミ報道が先行したものの、東大の浜田純一学長が正式に発表したのは、翌20日。この日の会見で、浜田学長は旧帝大や一橋大、東京工業大、早稲田大、慶応大など11大学と秋入学を検討する協議会を、4月をめどに設置すると表明した。岡村会頭の前日の発言は、この発表を先取りしたものだった。
岡村会頭は、東大の経営協議会の学外委員を務めている。東大の経営委員会は学内委員と学外委員で組織され、学外では岡村氏のほか、資生堂副社長の岩田喜美枝氏、三菱重工業会長の佃和夫氏、新日本製鉄会長の三村明夫氏らがメンバーとなっている。東大OBでもある岡村会頭は、これら産業界出身の委員の一人として、学内の懇談会の中間報告を知りうる立場にあったようだ。
東大は他大学だけでなく、経団連、日商などとも秋入学に向けた協議会を設け、新卒採用に与える影響や経済界が求める人材について議論するという。東大から経済界への根回しは周到に行われていたようで、20日の東大の正式発表前には11大学と連携する構想とともに、事前に伝わっていた模様だ。
新卒採用は年2回になり混乱か
これらの経緯から、経団連の米倉弘昌会長は25日の会見で「留学やボランティアなど様々な経験を積んだ優れた人材の確保とグローバル人材の育成につながる試みとして、経済界としても賛成したい」と、早くも歓迎の意向を表明した。東大の秋入学検討は同日開かれた政府の国家戦略会議でも話題となり、野田佳彦首相が「グローバル人材育成の観点から評価できる」と発言。米倉会長も同調したという。
現実に東大をはじめする難関校が秋入学、秋卒業となった場合、新卒採用は従来通りの春採用と秋採用の2回となる可能性がある。岡村会頭は新卒採用に与える影響については「大企業も中小企業も通年採用がほとんど常識化しており、混乱が起きることはないと思う」と述べたが、春秋の年2回の採用となれば中小企業などの負担が重くなるのは避けられない。
経団連によると、通年採用を実施しているのはソニー、日立製作所など大企業の26.5%にすぎない。秋入学で東大などの国際化が進めば、大企業は優秀な人材を採用しやすくなるメリットがあるが、学生にとっては就職活動が通年化、早期化する可能性が高い。
この点について、岡村会頭は「混乱が起きないように制度設計すべきだと思う」「産業界がどういう対応をとるのか、採用の仕方について企業側に問題が投げかけられることになる」と述べている。