東日本大震災による津波被害で塩分過多となり耕作不適地が問題になっているが、作物自体を塩害に強くする技術が注目を集めている。2012年1月20日、独立行政法人科学技術振興機構 (JST)と大学が共催する企業向けの新技術説明会で静岡県立大学生活健康科学研究科の丹羽康夫・助教が発表した。
植物の葉も根も耐塩性が増す
丹羽さんによると、塩害に悩むのは津波被害地だけではない。塩分を含む地下水が雪のように地上に析出し、耕作できない農地が、米国、オーストラリア、中国、アフリカなどの乾燥地帯を中心に米国とほぼ同じ955万平方キロメートルに達し、毎年、九州と四国を合わせた約6万平方キロメートルずつ増えている。農地から塩分を追い出す除塩技術の研究も行われているが、丹羽さんらは植物そのものを耐塩化する方法を追い求めてきた。
さまざまな植物の耐塩性を調べ、丹羽さんらがたどり着いたのは、細胞膜にあるたんぱく質で物質の輸送を担当する「ABCトランスポーター」と呼ばれる仲間の遺伝子。モデル植物とされるアブラナ科シロイヌナズナの同じ遺伝子を使い、塩分を高濃度にするとこの遺伝子の働きが強まること、逆に遺伝子の働きを止めると植物が塩分に弱くなる、などを確認し、特許を申請した。
「この遺伝子を組み込んだ植物は葉も根も耐塩性が増します。いろんな作物に利用できそうです」と、丹羽さん。すでに遺伝子を組み込んだ稲についての試験を始めている、という。
(医療ジャーナリスト・田辺功)