「過去のわだかまりを取れば簡単」だが…
バーナンキの人となりを知っている者として、彼は絶対にインフレ目標をFRBに導入すると思っていたので、1月25日のFRBの発表を聞いて「とうとうやったのか」と感慨深かった。
これで、日銀がこれまで言ってきたインフレ目標はダメで日銀に任せるべき、米国もやっていないという主張は説得力がなくなる。ここは、日銀も方針転換が必要だ。幸いなことに、インフレ目標にはしっかりした理論があるから、過去のわだかまりを取れば簡単だ。
国内に転じて、いろいろ批判されている民主党だが、見事な方針転換もあった。八ツ場ダムの建設再開だ。
最初の計画では2100億円の工事費で6000億円の便益があるという数字だった。しかし、現時点では工事費は2100億円でなく4600億円で、すでにそのうちの3400億円が使われている。
工事費の水増しはけしからん話だが、あと残り工事費1200億円で6000億円の便益となる。現時点で工事続行か中止を決断するには3400億円は「サンク・コスト」といい、これを考えないで意思決定するのが世界標準だ。6000億円の便益は1200億円の工事費を上回るので、工事続行が正解だ。しっかりした世界標準の理論があれば、方向転換も簡単に説明できる。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。