東京大学の「秋入学」への全面移行が大きな波紋を呼んでいる。慶応大学や東京工業大学、立命館大学など、すでに秋入学に前向きな大学があるほか、企業にも歓迎ムードが漂う。
大学の入学時期は秋入学が「国際標準」というが、大学の入学時期をずらすことで、高校・中学・小学校に至るまで、大きな変革をもたらすかもしれない。そんな勢いになってきた。
東大はかなり「本気」になっている
東大は入学時期を国際標準にあわせることで、日本人学生の海外留学や外国人留学生の受け入れを促進することを狙っている。今のところ、入試はこれまで通り春に行い、秋に入学・卒業となるようだ。
東大の浜田純一学長は2012年1月20日の記者会見で、秋入学に全面移行する時期について「5年前後で実現したい。東大単独ではなく、必ずほかの大学と一緒にやる」と話した。
4月に有力大学との協議組織を設ける考えで、他大学と足並みをそろえて実施したい意向。すでに北海道大、東北大、筑波大、東京工業大、一橋大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大の旧帝大などと、早稲田大と慶応大に参加を打診していて、課題や実施方法について議論する。
あわせて、経済団体や20社ほどの企業と大学側との協議組織を設ける構想も明らかにしたことから、東大がかなり「本気」になっていることがうかがえる。
秋入学への移行を、日本経済団体連合会の米倉弘昌会長は「歓迎する」という。グローバル企業を中心に、多くの大手企業で評価する声が聞かれる。
また、国も大学が国際化を目指すことには前向きだ。古川元久経済財政担当相は1月24日の閣議後の記者会見で、「秋入学で卒業する人たちの採用を政府全体でも考えればいい」と語った。従来の4月採用だけでなく、9月にも入省・入庁できるようにする案をあげ、内閣府で検討するよう指示したという。
公務員採用も、秋にずらすというのだ。古川経財相は、「まず政府が門戸を開く姿を積極的にみせることが、民間企業が秋採用に向かうことにもなる」との考えを示した。
高校卒業から秋入学までの半年間の「使い道」
歓迎ムードが目立つ「秋入学」だが、課題は山積。なかでも、焦点の一つが高校卒業から9月入学までと、大学卒業から翌年春の就職までの「空白の半年間」の使い道だ。
秋入学の大学が増えれば、企業は通年採用の体制をつくる必要に迫られる。しかし、これは案外すんなり行くかもしれない。
最近は、楽天が2010年10月から秋採用を実施。ソニーやイオンが通年採用の体制を整えている。ファーストリテイリングは海外採用に積極的で、同社も通年採用に柔軟に対応している。自動車や電機などの大手メーカーも、すでに海外の大学卒業者を対象に秋採用を実施しており、採用活動への影響について心配はないという。
むしろ、高校卒業から大学入学までの半年の過ごし方が問題だ。東大は、「ボランティアや海外ホームステイなど多様な経験を積んでもらい、それを評価するプログラムを用意する」としている。
さらに、秋入学までの期間は外国語や数学などの基礎学力の補習授業に充てて、とにかく「遊ばせない」ようにしようという。
つまりは、「結局、幼稚園から就職まで9月にしないとうまくない」ということらしい。