北朝鮮の故・金正日総書記の長男、正男氏(40)が「3代世襲」に反対していることを特報した東京新聞の五味洋治編集委員が2012年1月24日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見を開いた。
正男氏とのメールのやり取りやインタビューの内容をまとめた著書「父・金正日と私 金正男独占告白」(文藝春秋社)の発刊を記念したもの。「放蕩息子」とのイメージがつきまとう正男氏だが、五味氏に対しては「読書家」「非常に礼儀正しい人」といった、まったく違う一面を見せていた。
7時間のインタビューとメール150通をまとめる
著書「父・金正日と私 金正男独占告白」について会見する五味洋治氏
五味氏によると、正男氏とは04年北京首都空港で偶然出会ったのをきっかけに、メールの交換が始まった。その後、数年間にわたって音信不通になったものの、10年10月になって正男氏からメールが届き、交流が復活。11年1月には、マカオでインタビューもしている。今回の著書は、合計7時間のインタビューと150通にわたるメールのやり取りをまとめたもの。多い時は、1日に3通のメールをやりとりすることもあったという。
正男氏が一貫して訴えていたのは、(1)世襲反対(2)経済改革が必要(3)後継者の正恩氏は、住民の生活を豊かにすることに重点を置いて欲しい、という3点。一方で、正日氏の健康状態や、「軍、核、拉致問題」については具体的なことは言わなかったという。
01年に成田空港で拘束されたことで「放蕩息子」とのイメージがついてしまった正男氏だが、やはり本人も後ろめたいところがあるようで「そのことは話したくない」と語っていたという。この件では、金正日氏が激怒し、親子の関係が一時期疎遠になったとされる。だが、実際の正男氏は「非常に礼儀正しい。非常に常識的な、話の通じる人」だというのが五味氏の評価だ。
「私が(北朝鮮に関する)ニュースを見たときに、確認しようとしてメールを出すと、『もう読んでいます。私の経験からして、信憑性がないんじゃないか』といった話しをしていた。北朝鮮が韓国を砲撃した延坪(ヨンピョン)島事件の時も、『あの地域を紛争地域として印象づけないと、北朝鮮は軍備増強ができない』と、さらっと書いてあったが、彼の分析には非常に同感。韓国から北朝鮮に関する本を買って、スキャンして送ったりもしたが、『もう読んでいる』というのがほとんどだった」
と、読書家ぶりに舌を巻いていた。また、
「自分では『政治には関係ない』といいながら、非常に関心をはらっている」
という。
「リタイヤしたら、本当の友達になれると期待」
五味氏は、やりとりの内容を本にして公開することについては正男氏と合意していたものの、出版の時期について折り合いがつかないまま出版に踏み切った。本の出版で正男氏の身に危険が及ぶ可能性があるとの批判に対しては、五味氏は
「彼に対する関心が高まれば、色々な勢力が彼に手を出すことは難しくなる」
と反論。現時点では、五味氏からのメールに正男氏から返信はないというが、
「(東京新聞を)リタイヤしたら、彼の本当の友達になれると期待している」
と話していた。