2012年1月20日、ミステリー界のアカデミー賞と呼ばれる「エドガー賞」の今年の最優秀作品賞の5候補のひとつに、東野圭吾さん(53)の小説「容疑者Xの献身」が選ばれた。
その同じ日、東野さんの「ネタ切れ」「もう書きません」という、「断筆」を予告するような直筆コメントが新聞や中刷りに掲載され、一部で衝撃が走った。
受賞すれば日本人初の快挙
東野さんは、85年、第31回江戸川乱歩賞を受賞した「放課後」でデビュー。その後、「秘密」(99年)や「白夜行」(00年)、「流星の絆」(08年)など、次々とヒット作を生んでおり、いま一番の売れっ子作家。今回候補に選ばれた「容疑者Xの献身」(05年)は直木賞も受賞し、俳優の福山雅治さんが演じた「ガリレオ」の映画版として、08年に上映されている。
「エドガー賞」は、アメリカのミステリー作家エドガー・アラン・ポーにちなんで創設されたもので、日本の作家では04年に、桐野夏生さんの「OUT」が最優秀作品賞の候補に選ばれていたが受賞はならず、もし今回、東野さんが受賞すれば日本人初の快挙となる。
ところが、おめでたいニュースの一方で、「断筆」を予感させる広告が掲載されたのだ。
これぞ東野流ユーモア
20日、全国紙の広告や電車の中刷りに、「もうネタ切れ。業界の皆様、御安心ください。もう書きません」という、東野さんの直筆メッセージが載った。2012年1月20日刊行される「歪笑小説」(集英社文庫)の広告の中だ。
もし本当に「もう書かない」「断筆」というのなら、ファンはもちろん出版界への影響は計り知れない。さっそく今回の広告を出した集英社に聞いてみた。
まず、問題の新作「歪笑小説」について。これは東野さんの「笑」シリーズのひとつで、これまで「怪笑小説」「毒笑小説」「黒笑小説」を出している。いずれもブラックな笑いがあるユーモア小説。今回の「歪笑小説」は、自作のドラマ化に浮かれる作家や、担当編集者に恋した作家など、出版界の裏話などをネタにしている。
集英社広報は語る。
「東野さんの直筆のメッセージ『もうネタ切れ。業界の皆様、御安心ください。もう書きません。』は、同シリーズに向けられたジョークだと認識しております」
つまり、「もう書きません」を「断筆」と読むのはまったくの「誤読」「早トチリ」。「笑」シリーズでは、先の「黒笑小説」でも文壇の裏事情を扱っていたこともあり、「出版界の裏話をブラックに描く」ということについては、「もうネタ切れ」「書きません」というアナウンスだったというわけだ。
とりあえずは、4月26日に発表されるという「エドガー賞」の朗報を待ちつつ、さらなる新作を期待するのがよさそうだ。