座礁事故を起こしたイタリアのクルーズ船「コスタ・コンコルディア」に乗船していた日本人観光客が帰国し、当時の様子を振り返った。船長は真っ先に避難、乗員も乗客より先に救命ボートに乗り込んだ事実が明らかにされた。
一部の乗客はボートに乗れず、はしごを使って飛び降りる危険を冒さざるを得なかった。一方船長は、港湾当局から繰り返し船に戻るよう命令を受けても拒否し続けた。無責任船長はどのような罪に問われるのか。
「ボートから指示を出しています」と言い訳
コスタ・コンコルディアの事故で、2012年1月18日までに死者は11人に上り、20人以上の行方がいまだにわかっていない。一方、43人全員の無事が確認された日本人客は現地から帰国し、メディアの取材に対して当時の様子を赤裸々に語った。
一様に指摘するのは、船長をはじめ乗員による避難指示の遅れだ。「船は沈まないから安心してください」と言うばかりで、正確な状況が知らされない。船内は救命胴衣を着けた乗客でごった返し、救命ボートが準備されると「早く乗せろ」とパニック状態となったという。
対応が遅れたため船体の傾きが進行し、船首に向かって左側が浮き上がっていく。船の横幅は35メートルを超えるため、乗客の一部はまるで「高さ35メートル」の場所に取り残された状態と同じ形となった。船体の左側に備え付けられていた救命ボートは下ろせなくなり、乗客の中にはロープを使って、海面に近い船体右側に「降りる」ことになったと日本人乗客のひとりは証言した。
誰よりもうろたえていたのは船長かもしれない。乗客を残して早々に船を離れたことは伝えられていたが、さらに事故直後の船長と港湾当局者との通話記録が明らかになり、その無責任ぶりがさらされた。会話の様子から、既に船長が避難した後と見られるもので、当局の担当者は、
「船に戻れ。乗客が何人取り残されているのか報告しろ」
「戻って脱出のための指揮をとらないか。なぜ戻らないんだ」
と再三、厳しい口調で促している。これに対して船長はあいまいな返事を続け、「今はボートに乗って、ここから指示を出しています」と言い訳。「すべての乗客の脱出作業を行った」と、虚偽とも思える内容を報告するありさまだ。挙句、「何人の方が亡くなったんですか」と、自ら状況を把握していない事実がばれてしまう質問をして当局者の怒りを増幅させる場面もあった。これらの通話が無線か携帯かなどは明らかになっていない。
「逃げただけ」なら「30万円以下の罰金」
指揮官を失った現場では、乗客の安全を確保すべき乗員の行動も混乱を極めた。日本人の男性は、救命ボートに乗り込んだ際に周りを見ると、「クルーズ船のスタッフの方が多かった」と話した。乗客がまだ船に残されているのに、乗員もさっさと避難していたというわけだ。
複数の報道によると船長は、乗客が救出される前に船を放棄したこと自体も罰せられる模様だ。仮に同様のケースが日本で起きた場合はどうなるか。日本海難防止協会に取材すると、船員法第11条の「在船義務」違反に問われることになるという。船長はやむを得ない場合を除いて、船舶を指揮するに足る乗員にその職務を委任した後でなければ、荷物の陸揚げと旅客の上陸の時まで船舶を去ってはならない、という条文内容だ。
仮に11条に違反した場合は「30万円以下の罰金」と定められているが、これまで該当したケースがあるかについて、協会側で把握している限りでは「(国内では)聞いたことがない」そうだ。「日本人の船舶の乗員は極めてまじめ」で、かつての法律は現在の内容よりもさらに厳しかったと協会担当者は話す。
「乗客を置いて逃げた」事実に対する船員法上の責任はここまでだが、海難事故を起こしていれば別の法律で裁かれると、協会では説明する。乗客や乗員を危険にさらし、人命にかかわるような事故につながれば、業務上過失致死傷罪、また艦船の往来を妨害した罪にも問われるという。
コスタ・コンコルディアの事故は多数の死傷者を出した。乗客を見捨てた船長の責任は、現在イタリア検察当局によって厳しく追及されている。