「逃げただけ」なら「30万円以下の罰金」
指揮官を失った現場では、乗客の安全を確保すべき乗員の行動も混乱を極めた。日本人の男性は、救命ボートに乗り込んだ際に周りを見ると、「クルーズ船のスタッフの方が多かった」と話した。乗客がまだ船に残されているのに、乗員もさっさと避難していたというわけだ。
複数の報道によると船長は、乗客が救出される前に船を放棄したこと自体も罰せられる模様だ。仮に同様のケースが日本で起きた場合はどうなるか。日本海難防止協会に取材すると、船員法第11条の「在船義務」違反に問われることになるという。船長はやむを得ない場合を除いて、船舶を指揮するに足る乗員にその職務を委任した後でなければ、荷物の陸揚げと旅客の上陸の時まで船舶を去ってはならない、という条文内容だ。
仮に11条に違反した場合は「30万円以下の罰金」と定められているが、これまで該当したケースがあるかについて、協会側で把握している限りでは「(国内では)聞いたことがない」そうだ。「日本人の船舶の乗員は極めてまじめ」で、かつての法律は現在の内容よりもさらに厳しかったと協会担当者は話す。
「乗客を置いて逃げた」事実に対する船員法上の責任はここまでだが、海難事故を起こしていれば別の法律で裁かれると、協会では説明する。乗客や乗員を危険にさらし、人命にかかわるような事故につながれば、業務上過失致死傷罪、また艦船の往来を妨害した罪にも問われるという。
コスタ・コンコルディアの事故は多数の死傷者を出した。乗客を見捨てた船長の責任は、現在イタリア検察当局によって厳しく追及されている。