愛知県の中学・高校の体育教員が「計6日の指導者講習だけ」で、例年全員が黒帯(初段)に合格している。一般の場合とは異なり「昇段試合」を免除しており、「疑問視する声が出ている」とする報道が出た。
一方、「柔道の総本山」講道館(東京都)は「(愛知の事例について)問題ないと考えている」と話している。柔道を含む「武道」が中学体育の授業で必修になることを受けて柔道教育の安全性に関心が高まる中、「6日で黒帯」報道は注目を集めているようだ。
講習と講習の間に1年
読売新聞(ネット版)は2012年1月16日、「愛知の柔道教員、6日で黒帯 30年間全員合格」との見出しの記事を報じた。
「計6日の講習」の内訳は、1年目に受け身などの基礎や安全管理を学ぶ2日の講習を受け、1年後に実戦や審判などを経験する4日間の講習を受ける。県教育委員会が県柔道連盟に委託したものだ。講習が終われば、全受講者が「合格」し黒帯を取得している。
受講者について「柔道経験がほとんどない『白帯』の体育教員」と指摘した上で、「平均2年程度かかる」黒帯取得が、「愛知の場合は短期間の上…」と指摘し、昇段試合(点数制)の勝敗を考慮していないことと合わせ、「関係者からはこうした段位認定のあり方を疑問視する声が出て」いるとしている。
もっとも、黒帯取得のための「修行期間」は、6日間と言えば6日間にも見えるが、1年といえば1年にも見える。
ちなみに愛知県教委などによると、学校での柔道指導に黒帯(初段以上)の資格は必要ない。安全指導などの講習を受けるだけで「白帯」(初級者)のまま指導する教員も少なくない。黒帯取得と授業での柔道指導の安全性とは切り離して考えているようだ。
読売記事では、「講道館で実態を調査する方針だ」と指摘している。1月17日午後、講道館に聞いてみた。
「読売新聞の記事を受け、現地の関係者に確認し、対応に問題はないと判断しました。その旨も伝えました」
との回答だった。
「怖い。指導されたくない生徒涙目」の声も
問題ないとする理由は何か。記事を受け、インターネット上では「怖い。指導されたくない生徒涙目」といった不安感を表明する意見も並んでいる。
講道館の担当者によると、受講する柔道担当の体育教員は、「白帯ではあっても受け身すら知らないド素人というわけではない」。
大学時代に受けた柔道授業など「それなりの経験」を経ている上に、初年度講習から次の講習までの1年間の間に、練習などを重ねておくように、という意味合いがあることも考慮に入れている。さらに、体育教員としての運動能力の高さも評価している。
通常の「初段になる試験」では、「修行年限1年半以上」の場合、昇段試合で「3点」(同級者に勝てば1点、引き分け0.5点など)取ればよい(ほかに規定の技披露=形・型=や筆記試験など)。「1年半」未満でも、試合で高得点をとれば黒帯を得ることができる。
複数の高校柔道教育関係者によると、「素人で入学した1年生が、1年目に黒帯を取ることもある」そうだ。
愛知県柔道連盟の米田吉孝会長に聞いてみると、「(連盟の黒帯認定の仕方に)問題があるのでは、という指摘が今回なされたので、今後正式に講道館に相談し、問題があるという見解が示されれば修正していきたい」と回答した。
ちなみに東京都高体連の柔道関係者によると、都では「体育教員による黒帯取得の際の例外扱い」は聞いたことがないという。一方、大分県では「2日の講習で黒帯」(朝日新聞ネット版、1月17日)という同種記事が出たが、講道館や大分県柔道連盟幹部によると「講習受講者のうち、自信がある一部(2011年度は3割程度)」が昇段試験を受け、全員合格した。やはり講道館は「(対応に)問題なし」と県の連盟に伝えたという。
とはいえ、「例外扱い」には違和感を覚える人もいるようだ。ネット上では「(この)事実を知ったら、これからは黒帯全員を疑って見るね」という声もあった。一方、「オレも柔道初段だが、高校の授業レベルで簡単に取れた。体育教師は強いんでは」という指摘もあった。
講道館によると、2010年度に黒帯を取得した人は、男女合わせ約2万3600人だ。