日本テレビ系の報道・情報番組でコメンテーターが「キチガイ」と話し、ほどなく女子アナが対象発言を明確にしないまま謝罪した。
インターネット上では、発言を批判する声が上がる一方、「過剰反応ではないか」といった指摘も出ている。精神障害者団体の関係者にも意見を聞いてみた。
米ソの核兵器開発競争を語る文脈
該当番組は2012年1月15日に放送された「真相報道バンキシャ!」だ。1954年のビキニ環礁水爆実験の影響を受けた周辺地域の「今」を伝えるコーナーで、コメンテーターの河上和雄・元東京地検特捜部長が、実験当時は米ソ冷戦の中、東西陣営の対立が激しかったと指摘し、
「(東西陣営)両方ともキチガイみたいにどんどん原爆(核兵器)をつくろうとしていた」
と「キチガイ」との言い回しを使った。
その後、別の話題のコーナーをはさんだ後、番組終了近くに鈴江奈々アナが「さきほど番組の中に不適切な発言がありました。大変申し訳ございませんでした」と頭を下げた。
謝罪が、どのコーナーのどういう発言なのか、という説明はなかった。
河上氏発言のほかに謝罪が必要そうな発言はなかったと受け止めた人が多かったようで、ほどなくネット上では「キチガイ発言で日テレ謝罪」などと書き込みが始まった。「基地外」「キチ●イ」という表記を使う人もいた。
「不適切な発言」との指摘も出る一方、「そんなにマズイんだったけか?」「なんでそんな騒ぐの?いいじゃん」と「謝罪は過剰反応ではないか」という文脈の指摘も相当数並んだ。
「気違い→精神障害者」と言い換えを例示
テレビ番組内の「キチガイ」発言と謝罪は、過去にも例があり、例えば2009年3月のフジテレビ系「笑っていいとも!」でも、ゲストの女優が発言し、アナウンサーが謝罪した。
数年前に市販された共同通信の「記者ハンドブック」をみると、「気違い→精神障害者」と言い換えを例示している。「差別の観念を表す言葉」などは、「当事者にとって重大な侮辱(略)、あるいは差別、いじめにつながるので使用しない」との注意書きもある。単に言い換えの問題ではなく、「使われた側の立場になって考える」ことの重要性を指摘している。
テレビ各局も、おおむね同様の見解に沿ってそれぞれ独自に自主規制をしているようだ。
ちなみに、辞書「広辞苑」(最新の6版)によると、「気違い」とは、(1)精神状態が正常でないこと。狂気(略)。また、その人、(2)ある物事に熱中して心を奪われること。また、その人、とある。
今回の河上氏発言について、複数の精神障害者団体の関係者に話をきいてみた。いずれも「個人的な意見」と断った上で回答した。
「謝罪は当然だ」という意見も
ある関係者は、「今回のケースでは、謝罪は過剰反応だと思う」と話した。直接的に精神障害者の人に対して発せられた言葉なら問題だと思う。しかし、河上氏発言は核兵器開発競争に関する米ソ両国の姿勢について「比喩的に」述べただけだ。
「説明抜きの謝罪」も「形だけ」の印象で、仮に本当に謝罪する必要があると考えるのならば、もっと精神障害者をめぐる差別を無くそう、という姿勢をみせる方法を考えるべきではないか、という。
別の団体の関係者は、「まず、『精神障害者は危ない人だ』という偏見を作り出したのはマスコミ報道だ」と話した。凶悪事件の容疑者に精神疾患の通院歴などがあった場合、検証なしに即事件と精神疾患を結びつけるかのような報道をしてきたのはマスコミだし、そういう報道は今もなくなっていないとも指摘した。
一方、河上氏発言に対する謝罪については「過剰反応です」。核兵器開発競争を行う米ソに対する評価を「変に精神障害者と結びつけて」おり、違和感がある。
仮に本当に謝罪が必要なほどの差別だったとマスコミが考えるケースがあれば、「謝罪だけで済ませず、事前に社内で罰則規定を設けて罰するべきだ」。
今回はたまたま2人とも「謝罪は過剰反応」派だったが、「謝罪は当然だ」という意見の人も当然いると思う、と話す人もいた。