藤村修官房長官は2012年1月11日、警察庁の統計速報値で2011年の自殺者が3万513人と述べ、経済事情を理由とした自殺が多いとの見方を示し「デフレ下の経済状況を改善しないといけない」と強調した。まったく正しい認識だ。
政府としてどのように対処するかが問題である。デフレは物価の下落を意味するので、デフレになると名目所得が減少する、つまりデフレは名目所得、すなわち名目GDPの伸びがマイナスもしくは低いことと表裏一体である。藤村官房長官は、政府が名目GDPの低迷を何とかしなければいけないといったことと同じだ。
人口減少、言い訳にならない
ところが、政府・日銀の見解は奇妙だ。日銀は、デフレの原因を人口減少による成長率の低下ととらえている。そのことは日銀総裁の話によくでてくる。その意味するところは、人口減少という日銀では手の出せない分野なので、デフレや名目GDPの低迷は日銀の責任でないという言い訳が伏線になっている。
筆者は日銀の責任だと思っている。証拠はいくらでもある。世界各国のデータを調べても、人口減少の国は20か国近くあるが、デフレは日本だけで、名目GDPの伸びは日本が世界最低だ。
実は、同じ世界各国のデータで見ると、物価の動きや名目GDPの動きをよく説明できるものとして、マネーの伸び率がある。マネーの伸び率と、物価上昇率や名目GDP伸び率には強い正の相関がある。マネーの伸び率をコントロールしているのは中央銀行なので、デフレや名目GDPの低迷は中央銀行の責任というのが、世界のデータからの結論だ。
ちなみに、2000年代のデータでは、日本は世界最低のマネー伸び率で、世界最低の名目GDPの伸び率だった。1980年代では日本の位置はそこそこだったにも関わらずだ。
中央銀行がマネーの伸び率を増やすと、なぜ名目GDPが増えるのだろうか。ざっくりいえば、世の中に出回るお金が増えると、それを巡って経済活動が活発になるからだ。その産業に幸運が起こるかどうかは分からないが、どこかで経済活動が活発になるのだ。
デフレ脱却前の消費税増税の影響
経済学では、こうした状況について、「ヘリコプターからお金をまいたようだ」と表現することもある。かつて、ノーベル経済学賞を受賞したフリードマンがそう言ったからのようだ。そうなると、所得が上がり失業が減る。その結果、生活不安がなくなり、自殺も減ることとなる。ちなみに、これらの関係は数量的にはある程度わかっている。マネー伸び率10%以上を継続すると、名目GDPは5%程度アップして、自殺者は2000人以上減る、という具合だ。
しかし、政府・日銀のように、デフレや名目GDPの低迷は日銀の責任でないという見解なら、このような政策は決して出てこない。政府・日銀のように人口減少が原因というと、どんな対策をとってもすぐには効果は出ない。したがって、当分の間、自殺者は減らないということにしかならない。
そういえば、自殺者が増え出したのが1998年で、消費税増税直後だ。そこからデフレが深刻化したが、今の民主党はデフレ下でも消費税増税を強行しようとしている。2011年末の消費税増税議論では、客観的な数量基準が可能なデフレ脱却や名目GDPの一定以上の伸びを増税の条件とはしていない。
民主党政権は、どう考えても、自殺者を増やすような経済政策しかしていないように見える。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。