米ラスベガスで、世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)2012」が始まった。今回話題を集めている家電のひとつが、有機ELテレビだ。
この分野ではソニーが世界に先駆けて2007年に商品化に成功したが、2010年をもって生産を終了してしまった。韓国メーカーが大型の有機ELテレビを発表したが、ソニーは対抗策を考えているのだろうか。
生産終了の理由は「青少年ネット規制法」
韓国サムスン電子とLG電子は、「CES 2012」開幕前日の米国時間2012年1月9日に相次いで55型の有機ELテレビを公開した。両社とも2012年中に製品化、発売を予定している。
有機ELは、既に一部のスマートフォンやタブレット型端末の画面に採用されている。コントラスト比が高くて鮮やかな画質を再現でき、視野角が広く薄型軽量、そのうえ省電力とさまざまな特性をもつ。半面、これまで大型化は技術的に難しいと言われてきた。サムスンとLGはその点もクリアして、大型テレビ開発に道筋をつけたようだ。
実は、有機ELテレビで先行していたのは日本メーカーだ。ソニーが2007年、世界初の有機ELテレビ「XEL-1」を商品化して、家庭向けに発売したのだ。しかし2010年初めに生産終了となっている。
理由についてソニー広報に取材すると、2009年4月に施行されたいわゆる「青少年ネット規制法」を挙げた。同法は、ネットに接続可能な機器に対して、有害なウェブサイトへのアクセスを制限するフィルタリング機能を義務付けるものだが、ネット接続端子を持つ「XEL-1」は対応していなかった。価格20万円と高額のこのテレビがどれほど売れていたかは不明だが、結局ソニーは、フィルタリング機能を付けるのではなく、生産をやめるという判断を下したことになる。
ソニーは業務用にも有機ELディスプレーを製造している。テレビ局のマスター用モニターなどで使われており、事業は継続しているという。一方、家庭用向けは新商品が出ておらず、「XEL-1」も在庫がなくなれば国内だけでなく海外でも完全に販売が終わる。そのためか読売新聞(電子版)は2012年1月7日、ソニーが有機ELテレビから「撤退」と報じた。しかしソニー広報は「当社も大型の有機ELテレビ開発を視野に入れている」と明言、報道内容を否定した。
ストリンガー会長「次世代テレビの有力候補」
ソニーは「CES 2012」で、LED(発光ダイオード)600万個を配置した自発光型ディスプレーの試作機を発表した。テレビ戦略でサムスンやLGとの違いを出したように見えるが、ソニー広報によるとハワード・ストリンガー会長兼社長はCESで、「有機ELテレビも次世代テレビの有力な候補」と発言したことを明かした。広報担当者は開発の詳細には触れなかったが、「XEL-1」の後継となる「ソニーブランド」モデルの投入も今後あり得ると話す。メーカー各社が徐々に有機ELテレビへ参入している現状に、「まだ『立ち上げ時期』であり、業界全体で盛り上がっていけば部材のコストダウンなど、開発に有利な面も出てくる」と指摘した。
だが近年、テレビ事業が芳しくないソニーとしては悠長に構えていられないかもしれない。2011年3月期まで7期連続の赤字で、2011年11月2日には生産の縮小を発表。液晶パネル製造におけるサムスン電子との合弁も解消し、不振からの脱却を目指すソニーとしては何か「起爆剤」が欲しいところだ。
米調査会社ディスプレイサーチは2012年1月6日、有機ELディスプレーの市場規模が、2011年の約40億ドル(約3080億円)から2018年には約200億ドル(約1兆5400億円)にまで成長するとの試算を発表。しかも現在の市場は中・小型のディスプレーが中心だが、今後2年のうちにテレビに使われるような大型ディスプレーが主流になっていくと分析した。テレビ事業自体が「ジリ貧」の恐れがあるソニーにとって、有機ELテレビの市場参入が遅れれば、先行組の韓国勢に独占されて取り返しがつかなくなる懸念もある。